「美月!好きだー!!」
笑顔でそうはしゃぐように。
そんな彼に、ありがとう。そう言いながら思うのは、
その言葉を聞きたくないという事。
好きのベクトル
君の好きと私の好きは
いつも反対方向でしょ?
「なあなあ!見た!?見た!?美月!赤葦!!」
『見た見た。』
「すごいですね…」
「だろだろー!!マグレだけど!!」
豪快に笑いながら、喜びはしゃぐ彼は
『…幼稚園児か。』
「…そうですね。」
その言葉がぴったりだろう。
テンションが上がったり下がったりだけど頼れる大エース。
そんな彼をいつから好きになったんだっけ。
思い出せないくらい前かもしれないし、本当に最近の事だったかもしれない。
それ位に、この想いは私の心に自然と浸透した。
『自己練習終了〜!帰るよ〜!』
「えー!赤葦!あと一本!」
「駄目ですよ。木兎さん、いつもそう言って永遠にするじゃないですか。」
『そうそう、それに先生に怒られるのは私と赤葦なんだよ〜?なんで木兎を止めなかったんだっ!って言われるんだよ〜?』
そう言いながら、木兎を赤葦が引っ張っていく。
『着替え終わったら早くね〜』
「わかりました。」
「おう!」
汗だくの彼らは着替えるが、そこまで汗をかいてない私はこのまま帰宅する。
木兎と赤葦を待ちながら今日の晩御飯は何だろうなんて考える日々。
だけど、
『今日の木兎、カッコよかったな…』
なんて呟くのも多々あり。
「美月〜!!」
『木兎、今日は早いね。』
「おう、赤葦に早くしろって怒られたからな!」
「すみません、いつも待たせてしまって。」
『いいよいいよ、どうせ木兎が遅いんだから!赤葦は謝らないで!』
「今日は早いぞ!」
3人で帰るのは当たり前。
そして10分ほどすると分かれ道が来る。
「じゃあ、お前ら気をつけて帰れよ!」
『木兎こそ、気をつけてよね〜』
「お疲れ様でした。」
私と赤葦はまっすぐ。木兎は曲がる。
さみしいな。
なんて言えないけどね。
「おう!美月!好きだぞー!!!」
そして私の嫌いな言葉。
『はいはい、ありがとうね木兎。』
もう私の心は傷だらけ。
アッサリとした返事をして別れる。
「……美月さん。」
『んー?』
「美月さんって、木兎さん好きですよね?」
『え、うん。まぁ…』
「あ、俺の言っているのは異性としてです。」
『は?えっ…は?』
「すみません、違っていたら…」
『いや、えっと…うん。違くないんだけど…あれ、そんなに分かりやすかった?部活では、マネにしか話した事ないんだけど…』
「いや、多分誰も気づいてないです。俺は木兎さんとよくいるので…」
『あ〜そっか…』
思わぬ赤葦からの言葉に私はもっと気をつけようと心に決めた。
「なら…」
『ん?』
「…何でいつも木兎さんの好きって言葉、悲しそうにありがとうだけ言うんですか?」
『あ〜…赤葦、すごいね。
よく周りを見てるんだね。』
だからモテるんだな。
この優男め!
『木兎の好きと私の好きは違うから。』
「?」
『ほら、ベクトル習ったでしょ?ベクトルは長さ向き全部一緒なものが同じベクトルでしょ?
私と木兎の好きのベクトルは全く違うんだよ。』
そう、違う。
だって、私の好きは木兎を男性として好きだから。
木兎の好きは私だけじゃない。
赤葦やみんなに向けて言う好きと同じだ…
「……そんな事ないですよ。」
『え?』
「そうな事ないです。」
『赤葦?』
「木兎さん、美月さんの事になったら歯止め掛かりませんから。」
『え?そんな事…』
「もうそろそろかな。」
『え?何が?』
すると後ろから勢いよく走ってくる木兎の姿。
「美月ー!!!」
『ぼ、木兎!?』
私達の前に着くや否や、ギュッと抱きしめる木兎。
『な、何!?』
「赤葦!!ひどいぞ!!俺が好きなの知ってて告白するとか!!」
『!?何言ってんの!?』
「ね、言ったでしょ。美月さんの事になると歯止め掛かりませんからって。
安心してください木兎さん。してませんから。」
「え!?そーなのか!?」
「はい。」
「なんなんだよー!!」
「木兎さんが悪いんですよ。」
「え!?」
「木兎さん、好きならちゃんと美月さんに伝えてあげてください。」
それじゃ。と言って赤葦が帰って行く。
は?!え、まて赤葦。どーゆー事だ赤葦。
「美月。」
『な、何?』
「好きだ。」
『…何度も聞いてるから知ってる。』
「美月、俺と付き合ってくれねーか?」
『え?』
「だって、好きなんだぜ?なのに美月は好きって言ってくれねーしさー。」
『待って、木兎。私にいう好きは仲間としてでしょ?』
すると木兎は真剣な面持ちで言った。
「…確かに仲間は好きだ。けど、こんなにも好きだって言ってるのは美月だけだぜ。」
あぁ、本気なんだ。
だって、バレーをしている時と同じ表情だから。
『本当?』
「おう。」
『そっか…』
「おおっ!?美月!?腹でも痛ぇのか!?」
『違うよ、木兎。』
溢れ出す涙を止められないまま、木兎に抱きつく。
『嬉しくて…』
「!?」
『大好きだよ、木兎。』
「…!おう!俺も美月の事、大好き!!」
いつものように笑う彼。
だけど少しだけ特別な気がする。
それは、彼の想いと私の想いとようやく同じ方向を向いたから。
いや、最初からそうだったんだね。
fin