「お前さ、重いんだけど。」
その言葉が胸に突き刺さったままで。
側にいて。が言えない人
束縛なんてしないから…
お願い、私を見て。
ナナちゃんと二人でライブいってきていいだろ?
届いたラインに私の心に石のようなものがのしかかる。
重い重い重い
うん、いいよ!楽しんでね!
そう返信するのは当たり前。
だって重いだなんて思われたくないから。
『うん、仕方ないよね。』
「何が?」
携帯ばかり見ていた私の前にはいつの間にか人が立っていたようで、慌ててその人を見る。
『黒尾…』
変な髪型の長身の彼はなぜか私の前にいる。
『ど、どうしたの?』
「は!?お前の生物のノート待ちだろ!!」
『あ、ごめん!!!あと少しだけ!』
この間休んだ分の板書を写している途中だったことを思い出す。
「なぁ、生物のノートくらい彼氏に頼めば良かったんじゃねーの?」
『あー…うん、そうだね。私うっかりしてて忘れてたんだ〜』
そんなのは嘘。頼むなんてそんなことできない。だって、こんなに面倒な板書を写してだなんて嫌に決まってる。
「俺だったら言われなくてもするけどな。」
『え?』
「いや、何も。」
本当は聞こえてた。でも聞こえないふりをする。だって、多分…それが本来のカップルの姿。
ふと、目を黒尾に向けると険しそうに黒尾が窓の外を眺めてた。
『何見てるの?』
「いや、たいしたことねーよ。」
そう言う黒尾は何かを隠してる。
私は走って近寄った。
慌てた様子の黒尾を横目にしっかり捉えたのは彼氏の姿。そして…
『ナナちゃん…』
あぁ、でも目移りすることだってあるよね。だって人間だもの。
それでも向かわずには居られなかった。
走って教室を抜け出そうとする。
「おい!どこ行くんだよ!」
そんな声に返す余裕なんて今の私に持ち合わせていない。
そして中庭に辿り着く。
彼らとの距離は約2メートル。
「ねぇ、美月のこといいの〜?彼女じゃなかったっけ?」
「あーでも、あいつなんて言うかさーつまんねーし。ナナちゃんといる方が楽しいな〜〜」
そっか。そうだよね。
私よりもナナちゃんの方が可愛いし、空気も読めるし、
あぁ、私…
『何やってるんだろ。』
俯いたと同時に大きな手でそっと撫でられる。
驚いて顔を上げると黒尾の背中が目の前にあった。
「吉村と別れろよ。
そんな中途半端に付き合ってどれだけ傷ついてるかお前、何にも知らないんだな。」
なんで、なんでそこまで言ってくれるの。
「は!?お前に関係ねーし。」
「関係?毎日毎日お前が浮気するたびに泣くのを堪えて堪えて、とうとう泣いてたあいつを放っておけるわけねーだろ。
あいつをただのアクセサリーとして見るなら今すぐ別れろ。そこにいるじゃねーか、新しいアクセサリー。」
涙が止まらないのはいつぶりだろう。いや、泣いたのはいつぶりだろう、きっとあの言葉を言われてからずっと泣いてない…
「別にあいつなんて最初から本気じゃねーし!欲しいならやるよ!!」
そう言いその場を後にする彼は私の目には歪んで見えた。
『あはは…振られちゃった。黒尾ありがとうね。』
「なんで怒らねーんだよ。」
『だって、私が悪いんだもの。私がつまらない女だから。』
仕方ないよね。
私が悪いんだから。
「つまらないつまらないって言ってるからだろ。」
俯かせていた顔を上げる。
そこには少し怒った黒尾がいた。
「なんでそうやってお前はいつも自分で自分を締め付けるんだよ。息をするのも苦しいくらいに自分を追い込むんだよ。」
その瞬間、黒尾の腕の中にスッポリとおさまった。
『く、黒尾…』
「頼むから、そうやって自分を傷つけるのは止めてくれ…」
初めて見た。
こうやって震えた声で話す黒尾を。
初めて言われた。
そんな風に心配してくれた人っていたかな…
そして気付いた。
あぁ、私は自分を追い込んでいたのね…
「お前はお前なんだから。自分の本音はちゃんと言えよ。浮気されて嫌な奴なんて誰もいない。」
『うん…ありがとう。』
それから私は大分明るくなったと思う。
「美月、最近明るくなったよね〜!」
「うんうん、やっぱり別れて正解だよ!あんなクソ男!」
『あはは、確かに別れて正解だったな〜!』
「いや、違うでしょ!美月が明るいのはきっと…」
「美月〜」
「王子様のお出ましか。」
『ちょっと行ってくる!』
「王子様にしては髪型が変だけどね〜」
友達の笑い声を聞きながら彼の元へと向かう。
「美月、ここいこーぜ!」
『えー部活あるのに大丈夫なの〜?』
もう隠したりなんかしない。
『鉄朗、ありがとう。』
だって、私のために怒ってくれた唯一の人だから。
end