彼女には毒がある。
誰をも虜にするような、そんな毒を。
それが彼女を不幸にしてきたなんて、誰も知らない話だけども。
黒い花には毒がある
来る者拒まず、去る者追わず。
彼女を例えるのならば、それがぴったりだと周りは口々に言った。
バレーにしか興味のない俺でさえも彼女のことは知っていた。
冷たい目で見られても凛としている彼女の強さに惹かれたのもそうだろうが、彼女はまるでお話の世界に出て来るような美しい姫のように美しい人だった。
きっと、その冷たい目は、妬みからくるものでもあるのだろうと思った。実際、男子はこぞって付き合おうとするからだ。でもすぐに別れる。所詮、好きじゃない者同士が付き合った結果なのだろう。
『…よろしく。』
「お、おう!」
運が良かったのかそんな彼女と隣の席になれた。気になってはいたから嬉しいに決まってる。こればっかしは仕方がない。俺だって男だから。
それから俺はひたすら彼女に話しかけた。
淡々と話す彼女の笑顔が見て見たくて。
『木兎って本当に面白いわね。』
だから彼女が笑った時ほ本当に嬉しかった。
それと同時に、この笑顔を自分のものにしたいと強く思った。
だけど、彼女には届かない。
彼女はまた新しい彼氏を作った。
「美月ってさ、今の彼氏のどこが好きなの?」
『好きって言ってくれるところ。』
「え!?そんだけ!?」
『大事なことでしょう、私は好きって言ってもらえなきゃ不安で仕方ないもの。』
「いやまぁ、そうだけど…」
『木兎ってきっと愛されて育ったんだろうね。ううん、今だって愛されてる。時々羨ましくなる。』
分かるようで分からない彼女の言葉。
だけど何となく、彼女が寂しそうな表情をしていることは分かった。
「俺は美月のことも大事だぞ?」
言ってから恥ずかしくなって、直視できなかったけど、ちらっと見た彼女は
『…ありがとう。』
と言って少し嬉しそうだった。
そして部活が終わって、忘れ物をした俺は教室へ。
「美月!?」
『木兎…?』
「こんな時間に何やって…」
窓際の自分の席に座りながら外を眺めてた彼女に近づきながら、赤葦には先に帰っててくれと連絡を入れておいた。
『何となく…木兎に会える気がした。』
「え?」
『私、また一人になっちゃった。』
そう言った彼女はにこりと笑った。
何故、彼女が笑っているのかなんて理解できない。
「彼氏と別れたってこと?」
『ええ、彼が私のこと本当に好きじゃなかったから。』
「え、振ったってことか?」
『今までだってそうだったよ。だけど何故か私が振られたことになってただけ。まぁ、いいけど。』
知らなかった話は酷いもので、彼女のことを悪者のように言う周りに嫌悪感を覚えた。
『最初はね、好きって思ってくれてるって思うんだけどね、分かっちゃうんだよね。ただのアクセサリーだってね。』
「…悲しくねぇのかよ。」
『そんな感情、忘れた。いちいち悲しんでたって変わらなかったから。』
そんな事を平気で言えるようになってしまった彼女は笑っていた。
誰も彼女に向き合わず、表面だけを見て評価した結果だ。
今の彼女は美しいただの人形のようだった。
『木兎は何でそんな悲しそうなの?』
「美月が悲しまねぇからだよ。」
『…木兎って本当に変わってるね。私のために悲しんでくれてるの?そんな人、誰もいなかったのに。』
一瞬、彼女が泣きそうになったのを俺は見逃さなかった。
ちがう、彼女は人形なんかじゃない。
必死に堪えているのだと。
「美月、もういいぞ。」
『何が?』
「無理して笑うな。」
そっと美月の頭に手を置くと、大きな目から大粒の涙が溢れ出した。
『なんで…木兎は…私のことを見てくれるの…みんな外見しか見てないのに。』
「美月のことが大事だって、言っただろ?…まだ理由が必要か?」
するとゆっくり首を横に振った彼女。
そんな彼女をそっと抱きしめた。
「美月、俺がちゃんと見てるから。」
そう言うと、彼女の細い腕が俺の身体に巻きついた。
『ありがとう。』
そう言ってみせた彼女の表情は今まで見た中で一番綺麗な笑顔だった。
「さ、帰ろうぜ。」
『うん。』
美月と共に玄関へと向かう。
細くて柔らかい彼女の手を引きながら。
『なんか、木兎、彼氏みたい。』
繋いでいる手を見て笑う彼女。
「手、離す?」
『ううん、今日はこのままで…』
少し力が込められた手をそっと握り返す。
これだけ傷ついてきた彼女に付き合ってと言うのは酷だから、今はまだ告白はしないけど…
「美月、本当に好きになった奴とこれからは付き合えよ?」
『うん、わかった。』
必ず俺のことを好きにさせてやるから。
そして、美月は告白されても付き合うことがなくなった。
そんな彼女と俺が付き合うのはもう少しだけ先の話。
end