白い肌に触れたくて

『ねぇ、手を繋いでもいい?』

遠慮がちに言う彼女に向けて手を出す。すると細くて小さな白い手が、俺の手に絡みつく。

『衛輔さんの手は温かいですね。』

その笑顔が可愛くて仕方が無くて、抱きしめたい衝動を押さえ込みながら、無言でその手を引いて歩いた。

それは、高校三年の冬のある日のことだった。




























「美月、試合見に来るんですか?」

幼馴染だという犬岡はよく彼女である美月のことを話していた。美月は俺の一つ下で、付き合い始めたのは、三年になったばかりだっただろうか。いつも試合を見にきていた彼女をいつのまにか目で追ってしまい、好きだと自覚するのは、そう遅くはなかった。しかし、部活をしている俺が付き合って欲しいと言ったところで、彼女が望むような事は中々出来ないということも分かっていた。だから中々告白することができず、その想いは胸にしまっておくつもりだった。

「美月、夜久さんのこと好きらしいんですよ〜!」

勢いで口を滑らせた犬岡は心底焦っていたが、俺からしてみたらこれほど嬉しいことはないくらいの大ニュースだ。
すぐ行動におこした。自分でも驚くほどに。それくらいに好きだったんだろう。楽しげに熱く見つめるあの瞳を。どうか、自分だけに向けて欲しいと思えるほど、独占欲に駆られていた。


「好きだ。」


後にも先にも、こんなに余裕がなくてシンプルな言葉を告白に選ぶことはないだろう。自分から告白したことなんてなかったし、バレー部の誰かが告白した時に「何、格好つけてんだよ!」なんて言って笑ってたくらいだ。今となっては、こういう時こそ、格好つけたくなるのが男なんだなとわかった気がする。…が、すでに遅い訳で、シンプルな言葉はもう彼女の耳にしっかりと届いたはずだ。


『私もです。先輩が大好きです。』


真っ白な肌をしている彼女の頬はほんのり赤く染まっていた。嬉しそうにそういうものだから、こっちまで嬉しくなる。
とはいえ、付き合うとなっても"高校生といえばこんなデート!"というものは出来るはずがない。俺にとってはこれが最後の高校バレー。悔いは残したくはない。
だけど、彼女との時間も悔いが残るものにはしたくないと思う俺は、すごく欲張りだ。


『大丈夫です、待ってますから。それに、バレーをしてない先輩は先輩じゃないです。納得いくまで全力でしてください。』


その言葉にどれだけ救われただろうか。だから、俺は全力でバレーをすることができたのだと思う。
そんな俺を彼女はずっと支えてくれていた。
いつの間にか、名前を呼び合うようになり、時々敬語じゃなくなる彼女が愛おしくて仕方がなかった。


『いよいよですね。』


春高が目前に迫ったある冬の日、俺たちは二人で神社に来ていた。真剣にお祈りしている彼女を盗み見していたのは内緒。冬にしては暖かな日差しが俺たちを歓迎するように照らす。


『衛輔さん、応援してること、忘れないで下さいね。』

「あぁ。ありがとう。」


真っ白な頬をそっと撫でると、そこから徐々に赤くなる。


「まだ、照れるのかよ。」

『だって、普段はそんなことしないじゃないですか!』

「確かに。でも、触れたくなったんだ。」


春高前で気分が高まってるのか、今なら何でも言えるような気がした。

「美月、絶対勝つからな。」

『当たり前じゃないですか。』


そんな柔らかな昼下がり。緊張感溢れる春高はもう目の前。
それでも今は、彼女に甘えさせてもらおう。そっと頬に手を当て、彼女にキスを落とした。
それを知ってるのは、俺たちと神様だけ。


Noah