桃色に染まる頬は誰のせい

私の彼氏はクールでかっこいいと評判のモテモテ男子。そんな彼と付き合ったのが高校2年の冬。思い切って告白をすると、あっさり「いいよ」と言われて付き合うこととなった。最初は付き合っているという事実でドキドキしたが、彼はクールなんてもんじゃない。ほとんどバレーに意識が向いていて、私のことなんて放置の状態だった。

まぁでも、何だかんだ3年間お付き合いさせていただいています。


















大学2年になった今じゃ、もう大学の生活にも慣れ、それなりに楽しく過ごしていると思う。
『え、今なんて言った?』
彼氏はいるが、これが彼氏だと胸を張って言えるような関係ではないと思う。三年付き合っててこれといった進展はない。キスだってずいぶん昔のことのように感じる。手なんて繋ぐような人ではないし…
「今日家泊まるから。」
だから、この言葉を言われた時は驚いてしまった。
『嘘でしょ。どうしたの急に。』
「なんで嘘つかなきゃいけないわけ?何、用事でもあるの?」
『いや…ないけど…』
「ならいいよね?一旦帰るから、18時にはそっちに行く。」
言いたいことだけを言って彼は講義を受けにスタスタと歩いて行ってしまった。
頭の中はパンク寸前。
こんなこと言われるだなんて思いもしなかった。正直、潮時なのかなと思いながらもやっぱり彼の表情が頭に浮かんで離れず、こうやってズルズル引きずっていただけで。
彼はまだ私のことを好きでいてくれているのか。
いや、彼は最初から本当に私を好きでいてくれていたのか。
『駄目だ、未だに英のことが分からない。』
これが彼女と呼べるのか、疑問でしかないが…彼が言った言葉が証明している。
その日の講義は全くと言っていいほど頭には入ってこなくて、気付いた時にはすべての講義が終わっていた。
時計の針が16:30を指したあることに気づく。
『夜ご飯…どうしよう。』
慌てて英に何が食べたいかとラインしたが、何でもいいの一言しか返ってこなかった。
『英って何が好きなの…塩キャラメルしか思いつかないよ…』
塩キャラメルだけは印象に残っていた。
初めて一緒に帰った日、ずっと沈黙が続いて、いたたまれなくなった私が偶々ポケットにあった塩キャラメルを渡すと、嬉しそうに笑ってくれたから。
『あんな風に笑ってくれたのはあれが最初で最後だったなあ。』
バレーをしている彼は楽しそうで、勝てば笑顔を見せたし、負ければ悔しそうな表情を見せてくれた。だけど、その表情は私には作り出せなくて。バレーを見るのが辛くて大学は一度も見たことがない。
「あ、美月ちゃん!」
『えっ?あ、及川さん!お久しぶりです。』
後ろを振り返ると立っていたのは及川徹。
英の二つ上の先輩だ。英と付き合ってから少し話したっきりだったが、私のことを覚えていてくれたようだ。だから彼は女の子からモテるのだろう。
「ホント、久しぶりだね〜!今から帰るの?」
『はい、スーパーによって帰ろうと思って。』
他愛のない話を繰り返す。及川さんは英とは真逆の性格で、楽しそうに話しかけてくれる。それが例え、自分に関係のない話でも。だから、人は彼の周りに集まっていくのかもしれない。そう言った気遣いが、少しだけ嬉しかった。
もし、こんな人と付き合っていたら。
そう思うと、楽しい想像は出来るし、きっと幸せなのだろう。だけど、思い浮かんでくるのは、あの時の英の笑顔。
「何してるんですか。人の彼女に手を出さないでください。」
後ろから聞こえてきた声は、英の声だった。
振り向くと、少しむすっとした表情で、立っている。そして、その横には岩泉さんがいた。そんな英を面白がって囃し立てる及川さん。しかし、それも束の間、岩泉さんがそんな及川さんを止める。しかも、ただ止めるのではなく…
そんな光景を唖然と見ていると、いつの間にか横にいた英に手を握られた。
『えっ!?』
「何?」
『だって…』
目線を手に合わせると、その目線を辿った英が、あぁ。と、呟いた。
「嫌だった?」
『そうじゃなくて…』
「俺が嫌だって思ってた?」
そう言った英。よく分からない。英が何を考えているのか。
「ちがうの?」
そう言うと、英とはちがう声が聞こえた。
「違えよ。」
その声の持ち主は岩泉さんだった。彼は少しだけ困ったように、続けてこう言った。
「こいつ、吉村のことが大好きだからな。」
「ちょっ!岩泉さん!」
「吉村、こいつの行動よく思い出してみな。試合は毎回来いって言われてなかったか?高校生の時、帰る時間はよく玄関で会わなかったか?バレーを優先させてくれる吉村を国見はいつも感謝してた。」
言われてみれば、試合にはいつも来てた声をかけてくれていた。特に話したりはしないが、必ず私を探してくれた。
帰るときは必ず見送ってくれていた。玄関で他愛のない話すらしなかったけれど、必ずまた明日と言ってくれていた。
何で、そんな大切なことを忘れてしまっていたのだろう。周りのカップルに憧れて、目の前の幸せを大切にできていなかったなんて。
「美月、行くぞ。及川さん、岩泉さん、このお礼は明日返します。」
「おう。」
「楽しみにしてるよ〜!」
ズンズンと歩く英に手を引かれ、小走りの状態でついていく。
『ちょ、英!速い!』
「…ごめん。」
止まったかと思った次の瞬間、私は英の腕の中にいた。
『ど、どうしたの…』
「こうでもしないと、離れていきそうな気がした。」
わずかに震えている腕。そんな腕にそっと手を置いた。
「俺、バレーが好きだから、美月に甘えてたんだと思う。俺がバレーをして、それを見てくれて…それだけで嬉しかった。けど、いつのまにか、美月の姿がなかった。」
『…英は私のこと好きだった?』
「好きじゃない奴と付き合うほど、俺は器用じゃないことくらい知ってるだろ。」
『うん、知ってる。けど、不安だったの、英が大好きだから。』
ハッとしたような表情をした英が目の前にいる。そして、英の手がそっと頬を撫でた。
『もう一度、やり直そう。私、まだ英のこと全然知らないから。』
「…俺はこんな性格だから、また悩ませると思うけど、その度に言って欲しい。」
真剣な眼差しに、頷いて見せると、ようやく表情が緩んだ。
「さ、帰ろ。」
『うん!』
手を繋ぎながら、他愛のない話をして、スーパーへと向かう。
『なんだか、恋人同士だね。』
「…恋人だろ。」
『こういうの、嫌いだと思ってた。』
繋いだ手に目線を落とすと、英は少し頬を染めてこう言った。
「…別に、美月となら嫌じゃない。」
少し照れた表情。今まで見たことのない表情。そんな表情をもっと見たい。そう思った。


Noah