翠の瞳が似合う君

『ねぇ。ライター持ってる?』


社会人一年目。会社には多くの人がいて、全員覚えられるだろうかと不安だった俺がすぐに覚えた先輩は、翠の瞳が似合い、煙草が好きな女性だった。















『煙草はやめときな。今吸ってる私が言うことじゃないんだけど。』


先輩の家系は色々な外国の血が混ざっているそうで、その血を受け継いだのか、目の色が翠色だった。そんな先輩はバリバリのキャリアウーマンで、仕事が出来る女性として、同性の後輩からは特に人気だった。
そんな先輩が好きなのは煙草で、休憩中はよく吸っている姿を見かける。


「吸わないですよ。出費かさむし、健康に悪いし…先輩はやめないんですか?」

『やめれるもんなら今頃吸ってないな。』


ふぅっと息を吐くと白いようなグレーのような煙が出てきた。先輩の吸う量はその日の業務量にもよるが、割と多い方だと思う。ヘビースモーカーではないが、それなりには吸っている。大学までバレーをしていた俺からしたら、煙草なんていいこと無しだが、何故か先輩の吸う姿は嫌いではなかった。


『仕事は慣れた?』

「ボチボチですかね。」

『まぁ、社会人一年目なんだし背伸びしすぎない位が丁度いいよ。背伸びしすぎて失敗した皺寄せは、全て他の人にいくからね。まぁ、あんたなら大丈夫だと思うけど。』


そんな事を言う割には、俺にどんどん仕事を回してくる先輩。悪いが、俺は何度も心の中で先輩のことを鬼と叫んでいる。



「そうですか?」

『自分の力量くらい、分かったんでしょう。』


目を少し細めて微笑んだ先輩に不覚にもドキッとした。初めてそんな言葉を先輩からかけてもらった気がする。


『ほら、何ボサッとしてんの。行くよ。』

「あっ!はい!」

『菅原、あんたには期待してるんだから、裏切らないでよね。』


颯爽と歩いていく背中はカッコよくて、やっぱり尊敬できる先輩だと思った。



*
*


『A社のプレゼン資料は?』

「もう出来てます。」

『仕事、速くなったわね。孝支。』

「あんたがこき使ったからですよ。」


尊敬がいつの日か好きに変わり、上司と部下の関係は変わらないけれど、変わったことが一つある。それは俺たちが恋人になったことだ。未だに仕事ではひよっこのように扱う彼女だが、昔よりもはるかに支えることができているという実感はあった。


『じゃあB社は?』

「期限1週間先ですよね!?」

『ちなみに、あんたの仕事は今日四つくらい増えたから。』

「鬼!」

『対等になりたいんでしょ。早く追いついてみなさいよ。』


ニヤッと笑って見せながら煙草に火をつける。煙草の銘柄もずっとあの日のまま。


「見とけよ、美月!!すぐに並んでやるからな!」


休憩室から飛び出すように出てデスクに向かった俺に向かって、


『そういうところ、本当に好きだよ。』


なんて言ったなんて俺には知る余地もなかったのだけど。

彼女のお陰で同期の中でも一番に出世し、そして彼女に追いつくまであと少し。



fin


Noah