彼に憧れた藤の花

あの時、私は彼を見下ろしていた。
あの時見下ろさなければ私はあなたに出会えなかった。




















人混みに紛れるようにして立っていた私は「あつい」と隣に立っている私の友達の玲に聞こえるようにして言う。人が多いこの空間が暑いのか、彼女が熱いのかそれは彼女の受け取り方に任せよう。
ただ、私がそういうのはもう慣れっこだと言ったように華麗にスルーをしてみせた彼女。

そんな彼女の目線の先に立っているのは、及川 徹。
高身長で運動神経抜群。容姿は淡麗ときたらもう文句のつけようがない。ただ、性格が悪い。座右の銘は叩くなら折れるまで。この座右の銘はごく一部にしか知られていない。もちろん熱い声援を送っている彼女だって知らない。

なんで知っているかと言うと、彼は私のいとこだから。

私は彼の1つ上で遊ぶ度によく泣かせてきた。そんな過去があってか、会うたびに嫌な顔をするのはやめてほしい。
私だって行きたくて体育館に行っているわけではないのだから。

まあ、そんなこと言っても私にとって徹は可愛いいとこだ。応援はする。

だから私は結局最後まで上から観ているのだ。


「やっぱり及川君かっこいいね〜」

『そうかしらね。』

「あんたは従兄弟だからそう言えるのよ!あんなイケメン出会ったことないわ。それに1年からレギュラーって流石すぎでしょ。」

『そうかもね〜』


練習している姿をぼーっと見つめているとある青年が目に入った。

ツンツンとした髪に凛々しい眉毛。キリッとした瞳の青年が試合に参加したのだ。


『あの子二年生?』

「ああ、岩泉君だよ。及川君といつも一緒にいる子だよ。」

『あぁ、あの子のことか。』


徹の家によく遊びに来ていたあのヤンチャそうな子のことだろう。顔を合わせた程度で話したことはない。だけどあの徹といつもいる彼が少し気になった。


『あの子うまいの?』

「二年の中ならそうなんじゃない?でも三年いるからね。試合には出られないんじゃないのかな。」

『ふーん。』


確かに三年に比べればまだまだなのかもしれない。
今、後衛の彼を見るだけじゃ下手ではないけど上手くもない。そんな印象。
だけど何となくわかる。


『あの子、上手くなるだろうなあ。』


まっすぐな瞳に映る先はバレーボールのことだけだろう。そんな綺麗な瞳をした彼が上手くならないわけがない。


「お、及川君と岩泉君前衛だね〜二年生コンビはどんなものかな。」


前衛にきた二人を見つめる。
徹が指示を出し、岩泉君が頷く。

そして相手がサーブを撃てば彼等の独壇場だった。


「すご…」


いつもカッコいいと叫ぶ彼女でさえも驚いたようにゲームに魅入っていた。
どんなに無茶な体勢でも徹は絶対に俺の元へボールを届けてくれる、そんな自信に満ち溢れている姿がそこにあった。
そして、そんな迷いもなく飛ぶ彼にしっかりとボールを届ける徹。


『…阿吽の呼吸。』


今まで気にも留めなかったのにいきなり魅せられた。それと同時にどんな人なのか気になって仕方がなかった。


いつのまにか目に映る景色は彼だけになってしまっていた。


その私の目線に気がついたのか、彼が私を見上げてくる。


目が合った。
まるでお互いが引き込まれるかのように見つめ合っていた。


「岩ちゃーん!流石俺のパスだったでしょ!」

「うるせぇ!」


その空気を破ったのは私のいとこの徹。
うざったらしい表情で彼に話しかけ、頭を叩かれていた。


「ホント、仲良しだね。」


そう言った玲。


『徹にあんな素敵な友達がいたなんてね。』


そんなことを話しているうちに練習は終わり、帰る時間となった。
二階から見ていた私たちは下へ降りる。


「うわー徹くんファンすごいね。」

『面食いなとこ、玲とそっくり。』

「イケメンに越したことはないでしょ。」


階段を降り、一階にはファンがたまっている。そこへやってきた徹がニコニコと対応してみんなに帰るよう誘導していた。

そして帰ったところで私の方を見る。


「あ、玲さん!」


もとい、玲をみる。


「徹くん、お疲れ様!今日もすごかったよ〜!」

「ありがとう!そう言ってくれて嬉しいです!」

『面食い二人組め…』

「美月ちゃんだって俺のこと見にきたんでしょう!」

『全然、見るつもりなかったけど。』


いつもの様に言い返すと、酷いと言ってくる徹。


「おい、及川。片付け。」


呼びに来た彼と目が合った。


『あ、えっとごめんね。徹が迷惑ばかりかけて。』

「いえ、慣れたので。」

「何で俺のことディスってんの?!」


プンプンな顔をしている徹に玲が慰めているのを横目に彼に話しかける。


『岩泉くんだよね。』

「うっす。美月さん。」

『私のこと知ってたの?』

「よく来てたんで…でもいつもどこか上の空な気がして何となく。」

『あ、試合とかはちゃんと観てたよ!周りに比べたらちゃんと観てないのかもしれないけど…』

「…今日は観ててくれてましたもんね。」

『え?』

「見上げたら目があったから。」


頬のあたりを真っ赤に染めた彼はストレートにそう私に言った。


「おい!及川と岩泉!!さっさと片付け手伝え!!」


体育館の中から聞こえてくる声に二人は返事をし、戻ろうとする。


『あ、岩泉くん!』


振り向いた彼にこう言ってみせた。


『次も貴方のこと観るから。』


きっと私は今顔が赤いだろう。でもそれに負けないくらい赤くなった彼。


「…うっす。」


少し小さな声でそう言った。

戻って行く彼の背中を見つめていると玲が


「美月もお目当の相手が出来て良かったね?」


とニヤニヤと笑いながら言ってきた。
でも嫌じゃなかった。


『うん、今までなんかと比べ物にならないくらい楽しみかも。』


明日の彼はどんな姿を見せてくれるのだろう。私の気持ちは高鳴る一方だった。



end


Noah