グレーの世界が色づいた

生きる意味を失ったとき、一体どこへ向かって生きればいいのか、分からなくなった。


















影山飛雄。その名前を知らない人はいないほどに、彼は有名だった。なぜなら、日本男子バレーの代表として大活躍していたからだった。しかし、そんな活躍を見せていた彼は、とても似つかない場所にいた。
裏路地にひっそりと営業しているバー。煌びやかな世界の人がくるには似合わない場所。そんな場所に彼は足を運んでいた。

『あら、また来たの?』

「いつもの。」

『最近飲みすぎじゃない?』

この店のカウンターに立つ女性はそう言った。しかし、忠告に耳を傾けようともせず、静かに煙草に火をつけた。

『はい、没収。』

「返せよ。」

『嫌よ。まだ貴方はバレーボールの選手でしょ。』

「うるせーな!お前も思ったんだろ!俺はもうダメだって!!足を怪我してからずっと昔のようにいかない…そんな俺を誰が待ってんだよ!!」

声を荒々しくあげて、そう言った。そしてすぐにハッとし、謝る。その姿は痛々しくて仕方がなかった。

『私は貴方がもう一度、コートに戻るところを見たいけど。』

「お前も物好きだな…こんな、故障した俺を…」


先程没収した煙草を口に加え、そっと吸い込み、そして吐き出した。

『故障したなら直せばいい。貴方の心だって、中学生の時、氷ついていたじゃない。』

「おまえ…なんで。」

『貴方はバレー以外に興味なんてなかったものね。影山くんって本当に、純粋が故に残酷ね。まだ私が分からない?ねぇ、影山くん…月が綺麗ね。』


窓を眺めながら、彼女はそう言った。
そして、その言葉はとても懐かしい。


「吉村…?」

『えぇ、思い出してくれた?いや、もう常連だって言うのに、今更気付くなんて遅いけれどね。』


少しだけ寂しそうに笑いながら、煙草をもう一度吸い込む。そして深く深く吐き出した。

「いつも月が綺麗だって言ってたよな。」

『えぇ。貴方は馬鹿だから、その真意はわからないでしょうけれど。』

「あ?」

『まあ、いいのよ。さ、もう帰りなさいな。大丈夫、貴方はこんなことで終わるような男じゃない。だから、諦めないで。』

「…わかったよ。だけど、これからもここに来ていいか?」

『暫く、貴方にはシンデレラを作ってあげるわ。』

「ノンアルじゃねーかよ!」

『怪我に勝ったら、勝利の美酒を飲みましょう。だから、頑張って。』


そう言った女性に、微笑んだ。手を振り、外に出る。
月が柔らかく光り、照らす。


「月が綺麗だな。吉村。」


この言葉の真意など、知らない。だから、この言葉をいい続けた、女性の当時の気持ちだって知らない。

だから、この言葉に込められた意味は、ただ単純に月を褒めただけ。


だけど、その言葉の真意を知らずとも、その真意と同じ想いは、確かに彼の中にあった。


「吉村、見てろよ。」


ただ、それを伝えるのは今ではない。
ただそれだけは、わかることだった。


Noah