転がしてピンを倒す球体
我がバスケ部のエース様は大層変わったお人であらせられる。毎日飽きずに無茶ぶりに定評のあるおは朝のラッキーアイテムを持ち歩く様は律儀を通り越して執念すら感じてたまに怖い。
日本人の平均身長は軽々上回り、男にしては綺麗過ぎる顔立ち、成績は優秀、おまけにバスケ界では知らぬ者はいないほどの才能をもった、神様が匙加減を間違え過ぎた男は、けれどそれを覆すレベルに変人であった。
「待って真ちゃん、流石にそれはないわ」
「何故だ」
「百歩譲って真ちゃんは良いかもしんねーけど、みょうじ先輩に一日中それ持ち歩けって酷っしょ」
真顔で手に持つボウリングの球を見つめる男に溜息が出る。
そもそも出会いからして可笑しかった。「今日のラッキーアイテムは生徒会長なのだよ」なんて初対面の先輩に頼みに行く奴が何処に居るんだ?大体ラッキーアイテムが生徒会長って何だよ。アイテムじゃなくて人じゃん。なんと言うかもうその時点でお腹いっぱいだったわけだが、こともあろうに忙しい先輩に「部活の間だけでもそばにいて欲しい」などと言い出したのである。告白かよとその場では爆笑したものの、あっさりと「わかった」と答えた先輩を思わず二度見した。驚いたことに先輩は規格外の変人をも受け入れる包容力の持ち主だった。
「大体あの時の恩ならもう返したことになるっしょ」
「ふん、これだから高尾は」
「今の会話で馬鹿にする要素あった?なあ?」
「忙しいみょうじ先輩のお手を煩わせた恩に報いるにはまだ足りないのだよ」
「あ、先輩が忙しい人って認識はあったんだ」
と言うかそれ以前に恩を返すのがラッキーアイテムを渡すことってどうなんだ。しかもよりにもよっておは朝の。
早くもおは朝信者の変人として認識されている真ちゃんは別として、優等生を絵に描いたような女の先輩にボウリングの球を持ち歩けというのは最早嫌がらせだ。今までは幸い鞄に収まる程度の物だったが、ボウリングの球は渡されても困るだろう。
「あれ、緑間くんに高尾くん。朝練は?」
噂をすればなんとやらである。高過ぎないよく通る声に振り向くと、人懐こい笑みを浮かべたみょうじ先輩がいた。
これではボウリングの球が先輩に押し付けられてしまう。頭をフル回転させて回避案を模索するが、そんなことをしてる間に我らがエース様は挨拶もそこそこにおよそ高校の校内にはミスマッチな球を先輩に差し出した。なんでちょっとドヤ顔なんだよ真ちゃん。全然ドヤれないシチュエーションだよ真ちゃん。
「えーと、今日のラッキーアイテム……?」
「はい、少し大きいのでロッカーにでも入れておくといいのだよ」
「真ちゃんは少しの定義を考え直した方がいいと思うぜ」
若干引いてる先輩とは反対に、ご満悦気味に眼鏡のブリッジを押し上げる190cm越えの緑髪。設定にオプション付けすぎていてちょっと付いていけない。アイツはどこを目指しているのだろうか。
最早笑いを通り越して引いてると、ボウリングの球を両手で持ったみょうじ先輩が朗らかに笑い、こう仰った。
「ありがとう、ちょうど教室の花が替え時だから押し花の重石にするね」
その日オレは秀徳高校の聖母を目の当たりにした。
そして数日後、いつものお礼と称して押し花にしたしおりを真ちゃんに渡したことにより、真ちゃんの恩返しはまだまだ続くことが確定したのであった。
(170522)