「拒絶されて、会わなくなって、最近までは、ずっとその関係が続いてたんです」
「最近までって、え………中学ってことは、5年以上も会ってなかったの」
「はい」
中学卒業後、高校に入り、大学生になった今。
メディアでしか彼のことを知る機会が無くなってしまってから、もうそんなに経ったのか。
わたしの言葉を聞いてすぐ、目を丸くする平野くんに、自分でもあまり自覚していなかった事実を突きつけられ、胸が痛くなった。
「長いですよね、」
「まあ、短くはないと思うけど」
「でも不思議と、過ぎてみれば、あっという間だったんです」
「そっか、」
「再会したのは偶然だったんですけど、今思えば、会わない方が良かったのかもしれないなあ…」
だって、あの日再会しなければ、こんな思いをする事はなかった。
過去に一度、ずっと昔に終わっていたはずの関係を、改めて自分から断つことになるなんて、そんなの悲しすぎるではないか。
「大丈夫?」
「ん……ごめんなさい」
初めて誰かに話した過去の出来事は、思い出す度、ギュッとわたしの胸を締め付けた。
悲しくて、苦しい。
彼と会わなくなってから、ずっと忘れかけていた感情が、思い出と共に蘇る。
本当は、寂しかったのかもしれない。
大切な幼なじみという存在を失い、再会し、やっと修復しかけた関係が、嬉しかったから。
しかし、その修復し始めた関係を、もう限界だったとはいえ、自ら断ち切ってしまったのだ。
その事を後悔していないかと問われれば、ハッキリYESと答えられない。
「……ッ、バカですよね、」
たとえ、彼が自分の何かを否定する言葉を口にしたとしても、もう少し冷静な判断が出来ていれば、結果は違ったかもしれない。
わたしがもう少し大人で、もう少し優しかったら、廉くんは、今でも会いに来てくれただろうかーーー。
「廉くん、ちっとも変わってなくてっ……再会した後も、何回か会ったけど、自分本意だし、勝手だし、わたしのことなんか……全然、考えてくれなくて、」
「うん」
「気まぐれに会いに来ては、またなって、すぐ帰っちゃって……何がしたいのか、全然、分からなくてっ……」
「そっか」
「訳も分からないまま、怒られたり、冷たくされたり……そうやって、振り回されるのも、もうっ、嫌で、」
「……」
「…わたしばっかり、っ……廉くんのことっ……」
そこから先は、言えなかった。
「もういいよ」
「っ、」
言葉に詰まり、気付けば涙を流すわたしに声を掛けてくれた平野くんの言葉は、優しかった。
「今の話で、だいたいのことは分かったから」
「…っでも、」
「俺、廉とは付き合い長いし、君の話が嘘じゃないって事はなんとなく分かるよ。……辛かったよね」
優しい言葉に、涙が落ちる。
一度溢れてしまえば、なかなか止まらないそれをなんとか拭おうとするも、その手は目の前の彼に掴まれ、ぎゅっと握られた。
「どうして今まで、誰にも話さなかったの」
「………」
「泣くほど辛かったことを、5年以上も、誰にも話さず、抱え込んでたの?」
「……」
限界だった。
言われて、辛いという感情とともに、一気にあふれ出す涙。
平野くんの言葉に、ボロボロと落ちてくる涙は、止まることを知らなかった。
「そういうことは、ちゃんと誰かに話した方がいいよ」
「っ、」
「認めて吐き出して、受け入れて前を向かなきゃ、何も乗り越えられないんだから」
「うぅ……凄い正論っ、」
「廉と君のことはよく分かんないけど、ちゃんと、思ってることは伝えた方がいいと思う」
「でも、」
「でもじゃない。必要なら、俺が機会、作るよ」
わたしの両手を掴んだ腕に、平野くんが力を込めた。
その言葉通り、確かに話すことは必要だと思う。
わたしも廉くんも、お互いに思っていることは何も伝えず、この数週間を過ごしてきた。
会わなかった期間のこと。
自分のこと。
相手のこと。
いつも一歩引いて、当たり障りの無い会話だけを繰り返す時間に、生まれた距離は、少しずつ戻ってきている様な気がしていた。
しかし、それも今となっては、都合の良い勘違いだったのではないかと思う。
「……っ少し、時間をください、」
「ん」
「ちゃんと、考えるから、」
「分かった」
たっぷり数秒の間を置いた。
しかし、絞り出すように呟いた言葉は、なんとか届いていたようだ。
それを聞き、ようやく納得した様子の平野くんが
離した手は、そのまま、わたしの頭へ乗せられた。
「もう、我慢しちゃダメだよ」
向けられる視線と、その言葉が優しすぎたのだ。
もはや止める事など出来なかった涙を見て「泣き虫だな〜」と笑ってくれる平野くんの姿に、じわりと胸が温かくなった。
「優しいですね、平野くんは」
「いや、俺は別に、」
「ありがとう」
「…………」
彼のおかげで、少し気持ちが楽になった。
もちろん、現状は何も変わっていない。
しかし、それでも誰かに気持ちを打ち明けるだけで、こんなにも心が軽くなるのなら、もう少し早く、誰かに話しておくべきだった。
ほんの少しの後悔と、開放感。
相反する二つの気持ちの中、下手くそな笑みを浮かべるわたしに、平野くんも笑っていた。
「案外、大丈夫そうじゃん」
「え、」
「そうやって、ちゃんと笑えるなら良かった」
彼とわたしは、よく言えば、ただの知り合いだ。お互いが相手のことをきちんと認識のは、つい最近。
もちろん、友人という親しい間柄でもない。
それなのに、彼はどうして、こんなにも親身になってくれるのだろう。
「ケーキ、食べたら送ってくから」
「え、いいです」
「良くない。俺が呼び出したんだよ」
「でも…」
「遠慮しなくていいから。どうせ君を送った後、俺も迎え呼ぶし」
「……そっか。迷子になっちゃいますもんね」
「うるさいよ」
運ばれてきたケーキを、いただきます、と口に含む。
言えば、ムッと口を尖らせながらも、照れ臭そうに笑う彼の表情は、やっぱりとても優しく、柔らかかった。
比べるような事ではない。
分かってはいる。
しかし、どうしても、今までそばにいた彼の姿と比べてしまう。
「廉くんも、平野くんみたいに、優しかったらなあ、」
「……」
今さら叶うはずもないそんな望みを呟いたって、誰に届くはずもないというのに。