「は〜目の保養になる」
「同じ場所にいるならこうやってウッカリ恋始まったりとかしないの」
つい先日配信されたばかりのドラマを見ながら、友人達が呟く。
ちょうど平野くん演じる主人公が、ヒロインを抱き寄せるシーンに差し掛かった頃。つい先日、彼に優しく頭を撫でられたことを思い出し、ドキッとした。
「ねぇ〇〇」
「?」
気を紛らす為、口の中に放り込んだ飴をコロコロと転がし、友人の方に振り向く。
夕方にも関わらず、じんわりと汗が滲むのは、今日が季節外れの夏日だったからだろう。
廉くんと再開した頃。まだ少し肌寒かったはずの春風は、すっかり夏の風に変わろうとしていた。
「〇〇って、今はバイトしてないよね」
「うん」
「じゃあ、時間あるよね」
「まあ、比較的、?」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「?」
こういう時、可愛らしく眉を寄せる友人に、なんでもしてあげたくなってしまうのは、仕方がないと思う。
グッと肩を寄せられ、何を言われるのかと思えば、急に物凄い剣幕で、ドラマのエキストラ!一緒に出よう!と言われたことは、驚いたが。
「え、エキストラって、?」
「今平野紫耀が撮ってるやつ。学内のシーンで、生徒役の募集してるんだって」
「へぇ、」
「凄くない?生の平野紫耀だよ!」
要するに、ドラマというより平野紫耀が目的だろう。
キラキラと目を輝かせ、隣を歩く彼女は、この数日で完全に平野紫耀のファンになってしまったようだ。
「やっぱり、永瀬廉じゃなきゃダメ?」
「いや、何でそこで永瀬廉、」
「だって幼なじみじゃん」
「関係無いと思うけど、」
「じゃあいい?」
「うん、いいよ」
「やった!ありかとう!」
ドラマのエキストラなんて、初めてだ。
いつ、どこで、どんなものを撮るのかは知らないが、隣で嬉しそうに笑う友人の顔を見る限り、平野くんはいるのだろう。
アイドルである以前に、一人の優しい人として刻まれた彼の笑顔が、脳裏をよぎった。
「〇〇さ、平野紫耀とは知り合いじゃないの?」
「まさか」
「だよね、聞いてみただけ」
エキストラの話を終え、少し前を歩いていた友人達の一人が、こちらへ振り返った。
先の彼女とは違い、特にアイドルにも興味が無いという彼女から、まさかそんな話が出るとは思わなかった。
「現実なんて、そんなもんか」
「そんなもんって?」
「どうにか〇〇が永瀬廉と上手くかないかな〜って思ってたの」
「はい………?」
「幼なじみなんでしょ?そういうロマンス、ほんの少しも無かったの?」
聞かれて、即座に首を振る。
わたしと廉くんが?
まさか。
そんなこと、天地がひっくり返ったとしても、ある訳が無い。
「永瀬廉がダメなら他のメンバーとは?って、期待するじゃん」
「待って、待って、無い。あり得ないから」
「でも実際、あの永瀬廉とは幼なじみなんでしょ?」
「関係、微妙に拗れてるっぽいけど」
「それは……まあ、えっと、」
右、左、後ろ、と。いつの間にか、友人達が全員で、わたしことを囲い始めた。
おそらく軽い冗談だろうが、内容が心臓に悪すぎる。
あり得ないだろう。
廉くんはアイドルだ。
例え幼なじみだとしても、間違っても、そんな関係になることはない。
「で?もし付き合うなら?」
「はい……?」
「やっぱり永瀬廉?」
「だから、廉くんは、そういうんじゃ、」
「もしもの話!」
「例え話だから。もし永瀬廉に付き合おうって言われたら、オッケーする?」
「しない」
期待を込め、楽しそうに聞いてくる友人達には悪いが、わたしにとって廉くんは、そういう対象ではない。
もちろん、人として魅力的だとは思う。
しかし、そこに特別な感情があるかと聞かれれば、答えは否だ。
彼はわたしにとって、ただの幼なじみ。
それ以上でも、以下でもない。
「お、噂をすれば永瀬廉?」
「……と、うそ。あれ平野紫耀じゃない?」
「え。マジで?」
「うん。なんか話してるっぽい」
ここから少し先にある通りの方を指差し、友人達が話し始めた。
見れば、そこには確かに廉くんがいた。
少し前までは、すぐそばにあった、その綺麗な顔が、こちらに振り向くことはない。
廉くん、と呼んでも、きっと、ここからでは届かないだろう。
「〇〇、見過ぎ」
「……え」
「気になる?永瀬廉のこと」
「………」
言われて、無意識に見つめていた彼から視線を逸らした。
「大丈夫、なんにも聞かないから」
「………ごめん」
「いいよ。でも平気?」
「うん、」
「声、掛ける?」
いい。
言葉の代わりに首を振ったわたしに、友人達は、そっか、と呟くだけだった。
廉くんとは、もう何も話さない。
姿を見るのも、おそらく、これが最後になるだろう。
遠くの彼から、一刻も早く離れようとするわたしに、友人達が声を掛けた。
「〇〇」
「ん?」
「永瀬廉が、こっち見てる」
「……」
「絶対アンタに気付いてる」
「……」
「どうする?」
「………」
「分かった」
「よし!じゃあ、逃げるか」
「え……」
「ほら早く!」
「わっ、」
これ以上、彼とは関わりたくない。
そんな気持ちを、汲んでくれたのだろう。
両隣から、わたしの手を引く友人達の楽しそうな声につられ、走り出した。
「〇〇!」
しかし、直後。
聞こえた声に、一瞬でも視線を向けてしまったことを、酷く後悔した。
「廉くん……」
呟いた声は、きっと彼には届かないだろう。
それでも、ジッとこちらを見つめたまま、酷く辛そうに顔を歪めた彼の姿は、とても忘れられそうになかった。