ここじゃ話しにくいから。
今度。
あまり人のいない所でお願いします。

無茶なお願いにも関わらず、俺もその方がいい、と自分の連絡先を握らせた平野くんは、そのままドラマの撮影に行ってしまった。


待ち合わせに指定されたのは、大学から10分ほどの場所にあるカフェ。


「平野くん」
「あ、どうも」
「待たせてごめんなさい」
「ううん、俺も今来たことろだから」

帽子を目深に被ったままそう言った平野くんは、見ていたメニューをこちらに向けてくれる。

「わたしは後でいいです」
「いや、俺もう決めたから」
「え、ごめんなさい、それならすぐに決めます」
「ゆっくりでいいよ。荷物もちゃんと置きな」
「あ、ありがとうございます、」

席に着き、バタバタ慌てるわたしとは対照的に、落ち着いた声でそう言ってくれる彼は、なんだかとても新鮮だった。







思えば、廉くんは、いつもわたしのことなどお構い無しだった。

先に注文を決めた廉くんのことを待たせる訳にはいかないと、一度なんとなく目についたミルクティーを頼めば、そこからは、いつものやつでえぇやろ?と確認をとってくるだけの廉くんに、わたしは、うなずくことしか出来なかったから。


「何にする?」
「ん〜」
「ここね、ケーキとセットにすると、少し値段が安くなるんだって」
「え、付けます」
「ならこっち」

該当のページを差し出し、改めて、どれにする?と聞いてくる平野くんに、ありがとうと呟く。


「意外かも。君、甘そうな物が好きなのかと思ってた」
「はい、よく言われます」

ケーキは、甘さ控えめのチーズタルト。
飲み物は、アイスコーヒー。

注文を終え、満足気に笑うわたしの姿を見て頃合いだと思ったのか。平野くんは、すぐに、それで、と口を開いた。







「えっと、廉くんとわたしが、幼なじみってことは知ってますよね?」
「うん」
「幼なじみなのは変えられないし、事実ですけど、もう、わたしは彼に会うつもりないんです」

え、と小さく呟いた平野くんが、わたしのことをジッと見つめる。

「中学に入りたての頃だったと思います。その頃までは、わたしも廉くんも仲が良かったんです」

手を繋いで一緒に登校し、四六時中隣に、という関係ではなかった。
しかし、顔を合わせれば挨拶は交わしていたし、登下校の時間が被れば、同じ通学路を歩いていた。


変わったのは、そんな廉くんが周りから一目置かれる存在になってから。







「廉くんは、カッコイイでしょ」
「まあ、そりゃあね」
「その事が、ダメだったみたいです」
「?」
「要領が良くて、すぐになんでもできるせいでモテるし、自然と人は集まってきます。でも、その分周りからの期待値は高いし、中学生で、周りとは違うことを求められるのって、きっと、凄く大変だっただろうなって………今思えば、ちゃんと、分かるんですけど、当時は、分からなかったから、」

ただ一人、特別な廉くんが、特別な場所で頑張っていた。

その事を理解し、きちんと認めてあげれば、あんな風に彼から拒絶されることは無かったはすだ。


仕事。レッスン。
忙しい。時間無い。

いつもそばにいてくれた彼との間に生まれていく、埋めようのない距離が怖くて、無理矢理彼のそばにいようとした結果が、アレだった。






「最初は廉くんから、お前といてもつまんねーって、拒絶されました」
「そっか、」

いつもそばにいた彼から、初めて隣を歩くことを拒否されたことがキッカケ。

あの日、廉くんが発した言葉と、その鋭い視線が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。


「それで、会いたくないの?」

中学時代の話を終え、黙り込むわたしの様子を見た平野くんが、控えめに問いかけた言葉に首を振る。

「会いたくないのは、もっと別の理由です」