書店で偶然見つけた女性誌の表紙は、廉くんがメンバーと一緒に笑っている写真だった。


あれ以来、全く会っていない彼の様子は、たまに平野くんが教えてくれる。

『廉、今日もふきげん』

見慣れたそのメッセージを見て、溜め息を吐くのは何回目だろう。


「本当は、応援したかったのにな……」

パラパラとめくった雑誌の中。笑う彼に呟いたところで、何も変わらない。
それは、もちろん分かっていた。








器用で容量が良く、なんでも出来る廉くん。
そんな彼に、わたしはずっと憧れていた。

自分には無いものをたくさん持った廉くんが、羨ましかった。


直接口にしたことはない。
しかし、そんな才能に溢れた彼の凄さを、わたしが一番知っていた。

だからこそ、本当は一番近くで応援したかった。




「誰の応援をしたかったの?」
「え……」

カタンと、軽い音を立てて、目の前の椅子が引かれる。

二人掛けの席で、雑誌にばかり注がれていた視線を上げれば、そこには、見たことのない男の子がいた。








「ごめんね。急に話しかけて」
「いえ……」
「その雑誌に写ってるの、永瀬廉くんでしょ?俺ね、ファンなんだ」
「そう、なんですね、」

きっと、本当にただのファンなのだろう。
一瞬でも変な人だと思ってしまったことに罪悪感が湧いたが、目の前の彼は、そんなわたしの様子には、気付いていないようだった。


「永瀬廉ってね、凄いんだよ。グループの中じゃ年下だけど、すぐにとっ散らかっちゃうメンバーのこと、上手にまとめてくれるの」
「へぇ、」
「忙しい中大学にも通ってるけど、ちゃんと仕事もこなしてて凄いよね」
「はい……」
「君も、ファンなの?」
「あ、いや……」

こういう時、なんと言えばいいのだろう。

初めて会ったこの人に、一から十まで話すなんて出来ない。

そもそも彼は、一ファンとして、たまたま雑誌を見ていたわたしに、声を掛けてきただけだ。


こちらの事情も、彼の事情も、何も知らない。







「彼のこと、応援したかったんです」
「ふーん、そうなんだ」

知らない誰かになんて、話せないと思った。

しかし、相手が知らない誰かだからこそ、話してもいいんじゃないかと思った。


「実は、少し顔見知りなんです」
「へぇ、永瀬廉と?」
「はい」
「なら、応援してあげればいいじゃん」
「そうですね。でも……もう無理なんです」
「無理?何で」

向かいの席に腰掛けた彼が、そう言って頬杖をつく。

「何で、でしょうね……でも、いつのまにか、どう話していいのか、分からなくなっちゃったんです」

幼い頃は、そんなこと考えたこともなかった。
いつもそばにいてくれた彼が、まさかいなくなってしまうなんて、思ってもいなかったから。







「喧嘩でもしたの?」
「まあ……そんな感じです」

昔とは、まるで別人のようになってしまった廉くんのことが、わたしには、もう分からないのだ。


「お兄さん、」
「ん?」
「どうやったら、大人になれますかね」
「え……」

分からなくても、分からないなりに理解し、受け入れることが出来ればーーー。

いつか、もう少し時間が経った頃。

偶然どこかで彼に会うことがあれば、その時わたしは、今より優しく、彼に接することが出来るだろうか。








「っ、はは!」
「え……」

思って、再び見つめた雑誌の中にいる廉くんと目が合った瞬間。それまで静かに話を聞いていた彼が、口を開けて笑い出した。

「わたし……なんか、変なこと言いました?」
「ううん、ごめんごめん。なんでもないよ。ただ、前にちょっと、似たようなこと言ってる知り合いがいたから」
「そうなんですか」
「そ。だから、なんか今の君と被っちゃって、笑っちゃった。ごめんね」
「いえ、それは別に、」
「大事なことは、ちゃんと話さないと伝わらないよ」
「え……」
「そいつにも同じこと言ったんだけどさ、そんなに無理に大人になったって、何も変わらないと思うし、気楽にいこーよ」

じゃ、俺はこの辺で。
置いてあった伝票を手に、そう言って立ち去ってしまった彼の笑顔に、どこか既視感を覚えた。

もう会うことはないだろうが、とても印象に残る笑顔だった。