本当はここで、行って来な、と快く彼女を送り出してあげるのが、男としての正解なんだろう。

「〇〇ちゃん」
「はい、」
「廉のとこに行くの?」

少し時間ありますか。
数日前、仕事終わりに彼女から届いたメッセージを見た時点で、何を言われるかは、なんとなく分かっていた。
というより、最初から俺の気持ちが彼女に届かないということは、よく分かっていた。


* * *

「………まじで好きになっちゃったの?」
「うん、どうしよう、」

キッカケは、本当に些細な事だった。
最初は、廉の為にも仲良くなってほしいという単純なお節介。
それが、いつの間にか彼女の為になって、廉のことなんか関係なく、ただ笑ってほしいと思うようになった。

「どんだけヤベェ子なの、〇〇ちゃん」
「ジンも会えば分かるよ、ほんとに良い子」
「でも廉の幼なじみなんでしょ?」
「うん、廉にいっぱい泣かされて相当辛かったみたい……そんなこと、自分じゃ絶対言わないけど」
「で、守ってあげたくなっちゃったんだ」
「まぁね、そんな感じ」

廉のことでそんなに悩むくらいなら、俺がそれを忘れさせてあげたいと思った。

「好きになっちゃったなら仕方ないと思うけどね」
「俺もそう思ってるよ、だから別にこの気持ちを抑えようとか、我慢しようとかは思ってないけど、」

ただ、俺にとって幸せな結末が待っていない事は分かっているから、苦しいだけ。


「あーあ……相手が廉じゃなかったらな、」
「でも廉は廉で拗れちゃってんでしょ」
「それはそうだけど、時間の問題だと思う」

廉が〇〇ちゃんのこと好きだときちんと認めたからには、もう俺に入る隙なんて無い。

彼女からハッキリ言われた訳じゃないけど、きっと、二人は同じ気持ちだから。


「肝心なのは〇〇ちゃんの気持ちでしょ。最初からそんな諦めてていいの?」
「だって俺、元々〇〇ちゃんのこと廉から奪おうなんて思ってないもん」
「好きなのに?」
「そう、好きだからね」

廉がきちんと、今度こそ素直に彼女と話せたら。

その時、俺はもう彼女にとって必要ではなくなると思うから。

「何も伝えないつもりなの?」
「どうだろ、それは分かんないけど、」
「俺にとっては、廉も紫耀も大事な友達だからさ、出来れば、お互い後悔しない方を選んでほしい」
「うん、」
「紫耀は、本当にそれで後悔しない?」

大事な友達と、好きになった人。

どちらも幸せになってほしいから、なんて。カッコ付けた俺の言葉は、きっと、ジンにはすぐに嘘だと見破られるような気がした。


「ずっと、ただの優しい人で終わるの?」


平野くんは、優しいね。

初めて彼女にそう言われた時のことを思い出す。


「確かに……やだったな。それ言われた時」
「ならもう答え出てんじゃん」

俺は誰にでも優しいわけじゃないよ。
君にだから優しいんだよ。

気付いて。
いや、やっぱり気付かなくていい。

でも、やっぱりちょっとは気付いてほしいかも。


目の前で、無意識に俺と誰かを比べている様子の〇〇ちゃんに、いっそのこと全部話してしまおうか、なんて思ったのはいつだったか。



「俺は、廉も紫耀も応援してるから」
「……そこは俺を応援してほしかった」
「ははっ、ごめんね」

嘘でも俺だけと言わない誠実なジンの言葉は、グダグダと迷う俺の背中を押すのに充分だった。