「今日もお仕事?」
「おん」
「そうなんだ。大変?」
「別に」
「そっか」

その日も彼は、わたしの授業が終わるのを見計らい、学内のベンチで寛いでいた。

相手は、アイドルの永瀬廉。
最初は周りの目が気になって仕方がなかったこの関係も、今では上手に同年代の学生達に馴染んでいる彼のおかげで、案外バレることなく済んでいる。


「つかさ、」
「ん?」

カランと、かき混ぜたグラスの中で、氷同士がぶつかる涼しげな音が響いた。

廉くんは、退屈そうにスマホへ視線を落としたまま、こちらを見ることも無かった。






「お前、雰囲気変わったよな」

そんなの、当然だろう。

だって、何年経っていると思っているの。
わたしも廉くんも、もう子供ではない。
雰囲気なんて、変わって当然だろう。

軽く笑って、返すはずだった。



しかし、それが出来なかったのは、ほんの一瞬こちらを見つめた彼の眼差しが、あまりにも鋭かったから。






「なに。急に黙るやん」
「え、いや……」
「女は化けるもんな。昔はただのちんちくりんやったくせに」
「ち、!?」
「なに?ちゃうん?」
「ち、違わない、けど……」

一瞬でさえ、ニコリともしなかった。
まるで、こちらを睨み付ける様な鋭い視線に、息が詰まる。


それと同時に、嫌でも思い出すのは、あの日、あの時。彼から向けられた"拒絶"。






「いっつもオドオドしとったもんな、俺の後ろ着いて回って」
「あ、うん」
「どしたん。そんな引っ込み思案が目元キラキラさせおって」
「……」
「一丁前に色気付いたやん」

形の良いパッチリとした目が、スッと細めらる。



「似合わんよ」
「………」

同じだった。あの時と。

まるで、こちらを責めるような鋭い眼差しに、冷たい言葉。


彼は一体、何がそんなにも気に食わないのだろう。








「廉くんは、勝手だよね」
「は?」

なんだか、バカみたいだ。

彼の一挙一動に、わたしばかりが傷付き、抉られた心を悟られないように笑うなんて。
一体、これから何度そんなことを繰り返せば良いんだろう。


「帰るね」
「は?なん、」
「廉くんといても楽しくないから」

きっと、もう昔のようには戻れない。

例えどんなに上辺だけ取り繕っても、開いてしまったお互いの距離は明確だ。


わたしも廉くんも、それぞれに歳を重ね、少しだけ大人になった今だからこそ、よく分かる。






「わたし達、幼なじみじゃなかったら、きっと一生関わることなんてなかっただろうね」

方や、世間にその名が知れ渡るほどの有名人。

一方わたしは、そんな彼とは、まるで対極に位置する人間だ。

特別容姿が良いわけでも、かと言って、何か秀でた才能があるわけでもない。
ただの、どこにでもいる大学生。


廉くんとは、生きている世界が違うのだ。


「ちょお〇〇、」
「もう会いに来ないで」
「え、」
「じゃ、お仕事頑張ってね」

最後に一言、そう言い残し、置いてあった鞄を手に取るわたしに、彼はそれ以上何も言わなかった。