小さい頃から、ずっと俺の後ろを付いて回る幼なじみがおった。

控え目で、大人しいくせによく笑うその子が、俺のことを「れん」と呼ぶ時。その笑顔が、一際嬉しそうにほころぶ瞬間が、大好きだった。

だから、返事をした。
手を伸ばされれば、それを掴んだ。


隣を歩く、この小さな存在を、幼心に守らなければならないと思った。












* * *

「れーん。ちょっとは休憩したら?」
「おー」
「体壊さないようにねー」

中学時代。
周りとは違う自分の特別に気付き始めた俺が、ちょうどそんな才能を活かし始めた頃。

慣れない環境に、学業との両立。

何をやっても、焦りや不安が消えなくて。
常にイライラしていた俺は、つい、そばにいた彼女の手を振り解いた。


何が嫌やったわけでもない。
彼女の存在が疎ましいなんて、これっぽっちも思ったことは無かった。

しかし、矛先の分からない苛立ちをぶつける場所が、そこしか無かったのだ。








「つまんないんよ、お前といても。つーか、誰といても変わらんわ」


大丈夫だと思っていた。彼女なら。

許されると思っていたのだ。何を言っても。

それなのに、離れていった背中は、もう二度とこちらに振り向くことはなかった。


一日、一週間、一ヶ月ーーー。

気付けば言葉を交わすことも、視線を交わすことも無くなってしまった彼女と、今さら何を話せば良いのか。
考えても考えても、結局上手い言葉なんて見つからないまま、俺達二人は、大人になった。







彼女は今、どうしているだろう。


「へぇ、ここって、ちょっと前に増築して、すっごい綺麗になった大学でしょ」
「そうなんだ」
「学食とかも種類豊富で安いって、この前ジュニアの子が話してた」
「なに、通ってる子でもいんの?」
「さあ、それは知らないけど」
「あ、写真あった」
「見せて見せて〜」


数年経っても、未だに残る後悔を引きずったまま、それでもなんとか、歌い、踊り、努力し、前へ出た。

心の何処かでは、どんなにそうして頑張ったって、彼女との関係が変わる訳ではないと、分かっていたのにーーー。


「………は」
「どうしたの廉?」







おそらく、撮影資料だろう。ロケ地だと言う大学の写真に映り込む数人の学生。

画角の端で、楽しそうに笑っている一人が、やけに目に付いた。


大学生にしては、少し大人びた印象を受けるのは、控え目に施された化粧と、毛先だけ緩やかに巻かれた髪のせいか。

雰囲気は、昔よりずっと女らしくなった。
けれど、その奥に残る笑顔のあどけなさだけは変わらない。


自分の中に残る幼い頃の記憶のまま、ふにゃりと笑う彼女の姿に、口角が上がるのを感じた。








「へぇ、綺麗な大学やん」
「ね」
「紫耀、撮影いつからなの?」
「来月」


話したい。
何を、なんて分からない。

しかし、それでも会えなかった分だけーーーいや、それ以上に、この空白の時間を、早く埋めなければならないと思った。



「………廉、くん?」


そして、思いがけず呼ばれた名前。

姿形は見えずとも、その声だけでドクンと脈を打つ鼓動に、あぁ、やっと会えたんや、と少し泣きそうになった。