もう会いに来ないで。そう告げた日を境に、彼は本当にピタリとここに来なくなった。

数日前まで、こちらの都合などお構い無しに現れては、行くで、と目的も告げず歩いて行く彼に着いて行くのは、疲れることもあったが、嫌ではなかった。


成長し、昔とは全く雰囲気の違う廉くんが、その時何を考えていたのかは分からない。

それでも、一度壊れかけた幼なじみという関係が、少しずつ修復されていく様で嬉しかった。

態度では分からないが、きっと、こうして会いに来てくれるということは、廉くんも少なからずそう思ってくれているのだろう。

期待し、ただなんとなく一緒にいるだけの時間に甘えていわたしが、悪かったのだ。


今さら、幼なじみという関係を切り離すことは出来ない。
それでも、わたしには、もう彼に付き合えるだけの余裕が無かった。







「はあ………」

気付けば、いつの間にか余り人の通らない場所を選んでいる。
校内でも、使用する場所は比較的人のいない場所。

余りにも大きすぎる存在だった彼のせいで、いつの間にか慣れてしまった静寂に、思わず溜め息を吐いた。



「……?何これ」

そんな時だった。

視線を下ろせば、足元に転がる一冊の本。
それは、何度もページを捲られたのか、端が丸まり、きちんと閉じなくなっていた。








落とし物かな、とその本を拾い上げれば、少し先には、ベンチで休む男性の姿。


珍しい。

人通りもなく、薄暗いこんな場所で、初めて自分以外の学生を見た。


「あの、」
「……?」

おそらく、これは彼の物だろう。

拾い上げた本を手に声を掛ければ、振り向いた男性の顔に、わたしはグッと息を呑むことになった。









「なに」
「……!」


話は変わるが、この大学には、つい先日から、ある有名人が出入りしている。

その名も平野紫耀。

詳細は知らないが、自身が出演するドラマの撮影をしているそうで、見かけても、極力近付かず。邪魔にならないように。
大人達から再三注意を受けていた為、その事実だけは知っていたが、その張本人が、何故こんなところにーーー。

目が合って、一瞬で硬直した体とは裏腹に、頭は冷静だった。


そうだ。
ここは人通りの少ない場所だ。
彼のような有名人にとっては、都合が良いのだろう。








状況は整理できた。

しかし、動揺で言葉も発せず黙り込んでしまったわたしの姿を見て、彼は何を思ったのか。

一瞬首をかしげ、すぐに目を丸くした。


「!……あ、それ、」
「……あ、」

視線の先は、わたしが拾った本。

それを見て、ハッと目を見開き、ズボンのポケットに手を入れ、上着のポケットへも手を突っ込む。

そして、何もないことを確認すると、この世の終わりのような顔をして、もう一度こちらへ視線を向けた。









「…それ、お……落としたわけじゃ、ないから」
「………」

騙されてあげようにも、無理がある。


しかし、思いがけず呟かれたそんな言葉に、緊張が解れたのだろう。
彼が同世代だということも思い出し、「中は見てませんよ」と言えば、彼は少し照れ臭そうに笑ってから、口を開いた。


「…………あの、南別館って、どこですか」