「えと……ごめんなさい」
「謝るってことは、何かあるんですか」
「そういう訳ではないんですけど、」
「なら、」
「とにかく、ごめんなさい」
朝の学内で、少しいいですか?と声を掛けてきた知らない女の子に、慌てて頭を下げた。
相手は、まだ何か言いたそうにジッとこちらを見つめていたが、これ以上何を聞かれたところで、わたしの答えが変わることはない。
さっさと講堂で待つ友人達のところへ向かおうと、元来た道を戻ろうとした時ーーー。
「ねぇ!」
「………はい」
「本当に、廉くんじゃないの、?貴女は、廉くんと一緒にいたわけじゃないの?」
「………」
わたしの腕を掴み、そう聞いてきた彼女の顔は、本当に真剣だった。
もしかすると、いつかはこうなるかもしれないと思っていた。
しかし、彼と会わなくなって数日。さすがにもう大丈夫だろうと安堵した頃に、この状況だ。
やはり、離れて良かった。
泣きそうな瞳で、ジッとこちらを見つめる彼女に、これ以上嘘は吐けないと視線を合わせる。
「絶対に、誰にも、何も言わないでください」
「それって、」
「付き合ってないし、友達でもないです。それだけは確かです」
「………」
「昔の、本当に小さい頃の知り合いで、少し会って、話をしていただけですから」
「………」
「大丈夫ですよ。あの人は、ちゃんとアイドルです」
掴まれた手を解きながら、きちんと全てを伝えると、彼女は、分かりました、ごめんなさい、と小さく呟いた。
彼女は、本当に廉くんのことが大好きなんだろう。
やはり、会わなくなって正解だ。
わたしの為にも。
彼の為にも。
今や、彼は普通の人ではない。
その背中には、たくさんの責任や、様々な人の人生がかかっている。
一つの誤ちで、全てを失うかもしれない彼の隣に、立つべき人は他にいる。
改めて、自覚させられた立場の違いに、はあ、と溜め息を吐いた時だった。
ねぇ、と軽く肩を叩かれ、後ろへ振り向く。
「!?え、平野紫耀、?」
「うん」
こんにちは、と、あの日と変わらない笑顔で声を掛けてきた彼の姿に、心臓が飛び出そうになった。
「こ、こんにちは……」
「はは、そんな驚く?」
「お、驚きますよ、そりゃ、撮影ですか、?」
「そう。またお邪魔してます」
「あ、いいえ、」
平野紫耀が目の前にいる。
一度経験しただけでも奇跡のようなその体験が、早くも更新されていることに動揺が抑えられなかった。
さすがに、また道に迷った訳でもないだろう。
どうしてここに、と聞きたくても聞けない言葉を飲み込んでいるうちに、あのさ、と話を切り出したのは、彼の方だった。
「君、廉の幼なじみだったんだね」
「!」
「ごめん、俺まどろっこしいのとか回りくどいのとか苦手だから、直接言っちゃった」
おそらく、先ほど声を掛けてきた女生徒とのやり取りを見ていたのだろう。
そう言って、目の前に立つわたしのことをジッと見つめた彼の表情は険しかった。
「何で隠してたの」
「別に、隠してたわけじゃ、」
「メンバーのこと話した時、廉の時だけちょっとおかしかったから、何かあるのかなとは思ってたけど、まさか幼なじみとは思わなかった」
「……」
「何であの時、廉が楽しそうにしてるかなんて聞いたの」
「……」
「幼なじみなら、自分で聞けばいいのに」
「………」
「何か、会えない理由でもあるの」
隠していた事実を、知られてしまった。
よりによって、彼の一番近くにいる存在に。
なんと言えばいいのだろう。
仮にもし、わたしと廉くんのことを、彼に話したとして、その後は?
平野さんのことは、あまりよく知らない。
しかし、少し話した印象では、真面目で真っ直ぐというイメージが強い。
話したことを、誰かに漏らされる心配はしていないが、話しづらいのは事実だ。
「言っとくけど、変な好奇心じゃないから」
「……」
「廉と幼なじみなこと言いふらしたりしてないし、多分、君は良い子なんだと思う。けど、そんな子がわざわざ廉のことを他人に聞くって、おかしいじゃん。だから何か理由があるなら、出来れば聞いて納得したいの」
「……」
「廉と、何があったの」
あ