「………どちら様ですか」
「別に?名乗るほどの者じゃないよ」

次の仕事に出てしまった彼を見送り、一人で朝を迎えることにも慣れてきた頃。

突然見たこともない車に行く手を阻まれ、道を塞がれた。


「君、苗字名前さんだよね?」
「違います」
「はは、さすがに危機管理能力が高いな。恋人に言われてるのかな?」
「はい……?」
「恋人、いるでしょ?」

「黒崎高志郎………君の恋人の詐欺師だよ」
「?!」

相手にするつもりなんて無かったのに、聞き覚えがあり過ぎるその名前に、思わず足を止めてしまった。


「一緒に来てくれるかい?」
「………」
「わざわざ名前を出しているんだ。断れば、君の大切な彼に不都合なことが起こるかもしれないけど、どうする?」

品の良い笑みを浮かべ、まるでエスコートするように後部座席の扉を開けたその男を、睨み付けることしか出来なかった。