俺は犯罪者だ。

どんなに正当な理由を並べたって、それが許されることはない。

だから、踏み込ませてはいけない。

彼女がそばにいてくれることを当たり前だと思ってはいけないと、ずっと自覚しているつもりだった。


「———今なんて言った」
「だから、こちらには今苗字名前がいると」
「………」
「君の大切な子だろう。可愛らしくて驚いたよ。従順なところもよく躾けているようで」
「ざけんな、」
「ん?」
「っざけんなよ……!」

激昂した俺を見て、ニヤリと笑う目の前の男に殺意さえ芽生えた。


どういうことだ。
何でバレた。

名前は今無事なのか。

一瞬で脳裏を過ぎる最悪の展開に、思わず白石の服を掴む手に力がこもった。


「関心しないなぁ。そんなに取り乱すなんて。彼女が弱点だと認めているようなものじゃないか」
「うるせぇ」
「まぁ安心してくれ。危害は加えていないから」
「………」
「それよりどうだ。お前の目的があの会社を潰すことなら、俺と手を組まないか」
「は……?」

俺に胸倉を掴まれたまま、余裕そうに笑う目の前の男に吐き気がした。

「お前の言う通り、俺にも目的がある。IPでの俺の仕事が終わったら、お前も好きにしろよ」
「冗談でしょ?IPは俺の獲物だよ」
「桂木さんの獲物だ。黒崎」
「?!」


———は?


「やっぱりお前が黒崎か」

俺はこいつに、黒崎と名乗ったことはない。

「桂木さんも人が悪いよ」

繋がった。

その言葉で、どうしてコイツが俺の邪魔をするのか。
名前のことを知っていたのか。

全て理解出来た。


掴んでいた胸倉を乱暴に離し、踵を返す俺に、白石は一言"また会おう"と呟いた。