「黒崎に会って来たよ」
「………」
「予想以上。君の名前を出した途端、人が変わったように掴み掛かられた」

しばらく会えていない彼の様子を、まさかこんな形で知ることになるとは思わなかった。


幸い、手荒なことはされていない。

しかし、完全に塞がれた出入り口と拘束された手元のせいで、この男から逃げることは出来なかった。


「不自由な思いをさせて申し訳ないが、これも明日までの辛抱だ」
「………」
「あの様子だと、すぐに君のことを助ける為に動くだろう。………愛されてるね」

ニコリと笑って、ちょうど鳴り出したスマホの画面を確認した男が、その電話に出る様子をジッと見つめた。


「………分かった。いいだろう」
「………」
「いるよ。今もずっとこちらを睨み付けている。声を聞くかい?」

そう言って、耳に当てていたスマホをこちらに差し出す男の言いなりにはなりたくない。

しかし、この電話の向こうに大好きな彼がいると思うと、このまま声を聞かずに終わってしまうのも惜しかった。

「どうした?何も話さないのか?」
「………」

『………名前?』

話すか、話さないか。

悩んでいるうちに、ジッと見つめていたスマホの画面から、大好きな人の声が聞こえた。


「黒崎くん………」
『大丈夫?怪我してない?』
「うん、大丈夫。あのね、黒崎くん、」
『ちゃんと助けてあげるから待ってて』
「ごめんなさい」
『………』
「黒崎くん、ごめんね、」

こんな時でも、いつもと変わらない優しい声にホッとした。

しかし、それと同時に、そんな彼の負担になってしまったことを改めて実感する。

『言いたいことは色々あるけど、とりあえず全部終わってからね』
「うん、」
『あと、離すつもりないから』
「………」

最後に一言呟かれ、一方的に切れたスマホの画面に視線を下ろした。


「おもしれーなぁ」
「………」
「どうする?君が消えたいなら姿をくらます手助けをしてやってもいいが……」
「余計なお世話です」
「そうか。それは残念だ」

決めるなら、彼と話して決める。

拘束された両手にグッと力を込めながら、久しぶりに聞いた彼の怒りを含んだ声に目を伏せた。