歳は、自分とそう変わらないと思う。

第一印象は、とにかく可愛らしい人。

恋人のものと思われる大きなパーカーに身を包み、恥ずかしそうに笑う姿は、女のわたしから見てもキュンとした。

きっと、彼女はその人のことが大好きなんだろう。

慌てて部屋に入って行く後ろ姿を見送りながら、相手の彼にも早く会ってみたいと思った数日後。

その願いは、意外にもすぐに叶うことになる。


「あー、新しい入居者って吉川さんか」

驚くわたしに、そう声を掛けてきたのは、あの時の詐欺師。

まさかもう二度と会うことはないと思っていた犯罪者と、こんな形で再会するとは思わなかった。


そして、同時に思い出す。

数日前、この部屋から、首に赤い跡を付けて出てきた彼女のこと。

「黒崎くん」

彼のことをそう呼び、心配そうにこちらを見つめる姿は、やはりとても可愛らしかった。

声だけで分かる。

彼女は、本当にコイツのことが大好きなんだ。

理解すると同時に、そんな彼女を見つめるあの男の顔を見て、さらに驚いた。

「ごめんね。お腹空いちゃった?」

……甘い。

「ふはっ。かーわいっ。もう戻るから」

まるで別人のように彼女を見つめて笑うその男が、あまりにも優しい顔をしているから驚いた。

分からない。
何が本当で、何が嘘なのか。

"詐欺師"

これがこの男の仕事なんだと実感し、一気に怒りがこみ上げた。


わたしが救ってあげなきゃ。

今思えば、ずい分勝手な正義感だったと思う。


騙されたって構わない。

その一言に、呆然と立ちすくむわたしを見て、綺麗に微笑んだ彼女に、何も言えなくなってしまった。





「———あ。」
「どうも。こんばんは」


もしかして………。

彼女は、アイツが詐欺師であることを知っている?

浮かんだ可能性を潰すために調べ上げた事件の記事は、わたしに全てを教えてくれた。


「お疲れ様です。お仕事終わりですか?」
「そう。あ、でも、わたしは詐欺じゃないですよ」
「アイツのこと、やっぱり全部分かってるんですね」
「さあ、それはどうでしょう」

人を揶揄って笑うところが、なんとなくアイツに似ている。


記事に出ていた高校生の長男というのがあの男のことなら、きっと彼女は、"その同級生"で間違いないのだろう。


「すみませんでした」
「ん?」
「何も知らずに、貴女の人生を決めつけるようなことを言って……」
「あぁ、あの人といたら、わたしの人生がめちゃくちゃになるって話?」
「はい、」
「そう思う?」
「え、」
「詐欺師の彼と一緒にいたら、わたしの人生、めちゃくちゃになるのかな?」

自然な流れで、隣を歩くことになった彼女から聞かれる。

その質問の答えは、きっと彼女自身が一番分かっているはずなのに。


「好きなんですよね、アイツのこと」
「うん、世界一好き」

幸せそうに笑う彼女の笑顔が、全てを物語っていた。

「それだけ自信を持って好きだと言える人がいるのは、幸せなことだと思います」
「それが犯罪者でも?」
「貴女にとっては、そんなこと関係無いんじゃないですか」

ただ好きで、支えたいからそばにいるんだろう。

真実を知った今、アイツの為にそうしている彼女の生き方を否定出来なくて、つい言ってしまった。

「アイツには、貴女が必要だと思います」
「……だといいな」

ポツリと呟き、儚げに笑った彼女の横顔を見て、どうか、この2人がこれ以上苦しむことがないようにと願ってしまった。