おかしい。
明らかに不自然だ。
「どしたの名前、食べないの?」
「……ありがとう」
差し出されたスプーンに乗っているのは、今SNSで人気のお店が出しているバニラアイス。
数量限定で入手困難なそれを、彼が嬉しそうに買って来たのは、ついさっきのことだった。
おそらく、抱えていた仕事がひと段落したのだろう。
ちょうど一週間ほど前から、やたらと上機嫌で部屋を訪れては、こうしてわたしを甘やかす彼に違和感を感じながらも、それを口に出すことは出来なかった。
「名前」
「ん?」
「今なんか俺以外のこと考えてたでしょ」
「ううん、」
「はーい絶対嘘。ちょっと間あったもん。なに考えてたの?」
黒崎くんが、どうしてそんなにご機嫌なのか。
思っても、口に出さないことが不満だったのか。
ムッと頬を膨らませた彼が、わたしの肩にかかっていた自分のパーカーを片方だけ肌蹴させた。
「ふふ、えっちー」
「黒崎くんが洋服返してくれないからでしょ」
「ねぇ、こんなとこにも歯型付いてるんだけど、知ってた?」
「ちょ、…っ…」
肌蹴た肩に触れながら、わざと耳元で囁かれる声に反応してしまう。
「もう一回しよっか」
「っむり、」
「何で?いいじゃん」
「良くないっ……もう疲れて、」
だから離して。
言う前に、つぅ、と耳から首筋までを唇でなぞられ、抵抗する手に力が入らなくなった。
「ね、っほんと……もう、」
「いいよ、名前はそのままで。俺が気持ち良くしてあげる」
「っ……」
「ほら口開けて」
ここ数日、もうずっとこんな調子だ。
「ん、くろさきくん……」
「ん?」
「あいす、溶けちゃう……」
「あー、ほんとだね」
軽めに触れる唇に耐えながら、なんとか呟いた声に視線が外れる。
今日だけで、もう2回。
これ以上は無理だと目の前にいた彼から距離を置こうとするも、それより早く、こちらに視線を戻した彼と目が合った。
「名前、あーん」
「え、」
「ほら、早くしないとアイス溶けちゃうでしょ」
先ほどと同じように、アイスが乗ったスプーンを差し出す彼から、にっこりと微笑まれる。
「どうぞ」
「………」
恐る恐る口を開けると、スプーンからアイスが無くなったことを確認した彼が、再び楽しそうに口角を上げた。
「美味しそうだね」
「ん、」
「いいなぁ。俺にもちょうだい」
「っ…?!」
狙いはコレか。
理解すると同時に、強引に重なった唇から彼の舌が割って入った。
「……ぁ、っん、……」
抵抗する間も無く、だらしなく開いた唇からあふれ出るそれを、彼の舌が舐めとる。
「……はぁ……えっろ、」
「…ん、っ」
「ごめんね。もうちょっと我慢しようと思ったんだけど、やっぱ無理」
「や、…っ…」
「やじゃないの。アイスならまた買ってきてあげるから」
そういうことじゃない。
もう無理なの。
言葉にならず、必死に彼の肩を掴む手に力がこもった。
「名前」
「、ゃだ……」
「好き」
「…ッ……」
「大好きだよ」
優しく抱きしめられ、囁かれる声に、結局は全てを飲みこまれてしまった。