可愛い。
これは超絶可愛い。
「じゃ、また後でね」
「ん、」
普段は俺からキスをしても、恥ずかしそうに笑って終わりなのに。
玄関先にも関わらず、不満げにこちらを見つめて
何か言いたそうな名前の姿にニヤけた。
「もう一回しとく?」
「……いい」
「そういう顔には見えないけど」
「っいいから!もう早く行ってよ!」
「ふはっ、意地っ張りなんだからも〜」
強引に背中を押され、ムッと頬を膨らます名前に見送られながら部屋を出た。
事の発端は、今回のターゲット。
宝条への足掛かりに狙いを付けた駒の元へ潜り込む為、その身内を利用することにしたのだ。
もちろん、黙っている事も考えた。
しかし、万が一この間の時の様に、俺の仕事が後から名前に伝わってしまったら、また彼女のことを傷付けることになる。
だから、機嫌を損ねる事も承知で全てを伝えた結果、名前は盛大に拗ねた。
それはもう可愛すぎるくらい拗ねて俺に甘える姿を見て、不謹慎ながらも喜んでしまった。
仕事だからしょうがないよ。
そう言って冷静に笑う名前に焦ったのも、今じゃバカバカしいとさえ思えるくらいだ。
『一、キスはしません。はい』
『キスはしません』
『ニ、お持ち帰りもしません』
『お持ち帰りもしません』
『三、絶対に好きになりません』
『絶対に好きになりません』
『……破ったら許さないからね』
『うん。約束する』
「はあぁ………もう会いたいんだけど…」
一体どこまで可愛いんだよ。
思い出すだけでニヤける彼女との約束を思い出しながら、ブランド物の重すぎるコートに腕を通した。