タイミングが良いのか悪いのか。

今少し忙しくて。ごめん。と彼から告げられたのは、わたしが気分転換に訪れた美容室で、お会計を終えた時だった。

「だいぶイメージ変わりましたね」
「はい。ありがとうございます」

長かった髪を胸元で揃え、色も変えた。

美容師さんの提案で綺麗にカールされた髪は、ふんわりと軽く、すぐに風で舞い上がった。


きっと、彼が忙しいのは本当だろう。

急にパタリと連絡が途絶えたかと思えば、数日開けてこの報告だ。

なんの連絡も無く、ただ一方的に距離を置かれていた時と比べれば、こんなメッセージ一言でも安心した。


「はい。苗字です」
『お疲れ様。この間相談してくれた件だけど、』
「…はい」


会えない間、彼がどこで何をしているかなんて分からない。

例えどんなに愛されていると感じても、これが生きている世界が違う、ということなんだろう。

アパートへ着き、真っ暗な隣の部屋を見上げて溜め息を吐いた。



「あの、すみません」
「、?はい」
「ここに住んでらっしゃる方ですよね?」

いつの間にそこにいたのか。

戸惑うわたしに構うことなく、確信を持った言い方をされ、胸騒ぎがした。

「どちら様ですか」
「鷹宮といいます」
「鷹宮さん……?」
「ここに住んでる吉川さんの大学で、助教をしています」

大学の関係者が、どうして家まで?

思ったことがそのまま顔に出ていたのか。

すみません、と一言告げて口角を上げたその人は、わたしに一歩近付いた。

「実は、少し伺いたいことがあって」
「吉川さんに関することなら、本人に聞いてください」
「違いますよ。僕は貴女に聞きたいことがある」
「どういうことですか」

鷹宮という名前。
大学の助教というワードを必死に頭で整理する。

「苗字名前さん」
「………」
「ここの大家さんとは、どういう関係ですか?」

バレている。

直感でそう思ったのは、彼の目があまりにも冷えきっていたから。

視線で分かる。

向けられる嫌悪に、明らかな敵意を感じた。

「高志郎くんのこと、何か知ってるんですか?」
「………」
「高志郎くん、普段からあんまり自分のこと話してくれないから………何か知ってるなら教えてほしいです、」

彼に嫌悪を抱く者なら、彼の正体を知っているはずだ。

詐欺師の男に、一方的に執着する女。
勘の良い相手なら、これでわたし達の関係にも察しがつくだろう。

「可哀想な人ですね」
「………」
「あんな男とは、早く離れた方がいいですよ」


何も知らないフリをした。

彼の邪魔をしたくない一心で、馬鹿な女を演じた。

しかし、警察以外にも彼の存在がバレているどころか、あの男は、わたしの名前も知っていた。

明らかに、ただの大学関係者ではないだろう。


彼に連絡をするか否か。

迷った挙句、自分で解決出来るならとこの事を黙っていた事実が、数日後、最悪の結果を生むことになった。