黒崎高志郎との関係を外部に悟られてはいけない。

詐欺師として生きる彼の隣にいることを決めた時から、それだけは絶対に守らなければならない約束だった。


「会わないよ」
『だから何で?もう仕事なら終わったって』
「それはあくまでも足掛かりでしょ。分かってる?黒崎くんは、宝条の資金源の一つを潰したんだよ」
『そんなこと分かってる』
「分かってない。相手は政界にも顔が効く権力者なの。ここから先、どこで誰が黒崎くんのことを付け狙っているか分からないんだよ」
『………』
「わたし……黒崎くんの足枷にだけはなりたくない」

口には出来ないが、その片鱗はすぐそこまで迫っているのだ。

『ねぇ名前、もしかして……なんかあったの?』
「何もないよ」

嘘を吐くことは心苦しいが、これも彼を守る為なら仕方ないと言い聞かせた。

『嘘吐き』
「嘘なんて吐いてない」
『じゃあ何で急にそんなこと言うの?相手が一筋縄じゃいかないことくらい、最初から分かってじゃん』
「分かってたけど、改めて気を付けようって思っただけだよ」
『へぇ、急に?』
「そう」
『……分かった。ならもう何も聞かない。名前が話したくなったら話して』

おそらく納得はしていない。

それでも、渋々引き下がってくれる彼の声を聞きながら、先日会った鷹宮という男と、宝条が並ぶ雑誌の紙面を見つめた。

「黒崎くん」
『なに』

守りたいの。

「大好きだよ」

誰より一番、大切だから。

「ごめんね、」

最後に一言。
呟いたわたしに、彼も同じ言葉を囁いた。