名前、好きだよ。
大好き。
そう言って、仕事を終えた彼に一晩中愛された次の日。
一旦自分の部屋に戻って着替えたいと彼の部屋を後にしたわたしは、そこで反対のお隣からで出てきた新しい入居者さんと顔を合わせた。
「初めまして」
「あ……ど、どうも!吉川です!ごめんなさいご挨拶が遅くなって、」
「いいえ。苗字です。よろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶と同時に、にこりと笑みを浮かべる。
若そうな女の子。
大学生かな。
ジッとこちらを見つめて、恥ずかしそうに視線を左右へ揺らす姿に首をかしげた。
「あの……何か、?」
「あ!いえ、ごめんなさいその……」
「?」
「首……」
「首、?」
首が何か?
聞く前に、なんとなく手を添えた首元が、彼から借りた大きめのパーカーで丸見えだったことに気付く。
「見えて……?」
「ましたね、割とバッチリ…」
恥ずかしい。
パーカーの襟元を口まで引っ張り、顔を隠した。
「お隣、彼氏さんですか」
「まぁ、そんな感じです……」
本当は、彼の仕事上あまりプライベートなことを他人に話してはいけないのだが、ここで否定してもあらぬ誤解を生むだけだと思い、うなずいた。
「じゃあ、わたしはこれで」
「はい。引き止めてごめんなさい」
彼が次の仕事に出るまでは、しばらく一緒にいられるかなぁ。
部屋の扉を開けながら、ふんわり香る彼の匂いに、もう一度着ていたパーカーの襟を口元まで引っ張った。
「………可愛い人だなぁ」