「黒崎高志郎を説得しろ」
暗闇の中で目が覚めると同時に、そう言って刃物を向けられた。
嫌だ。
告げたところで意味が無いことは分かっているが、それでも、彼の邪魔をするわけにはいかなかった。
「今度こそ、こちらに協力すれば助けてやる」
「……余計なお世話だと言ったら?」
ピタリと首筋に当てられた刃物が、肌を傷付けない程度に押し付けられた。
後ろ手に拘束された手では、抵抗することは出来ない。それを分かった上での脅しだろう。
少なくとも4人は確認出来たスーツ姿の男達を見上げながら、ゆっくりと口角を上げた。
「いいの?こんな風にわたしを脅すということは、それ以外に何も手立てがないんでしょう?」
「………」
「殺しちゃったら、打開策ゼロね」
わたしのせいで彼に迷惑を掛けるくらいなら、死んだ方がマジだ。
事が上手く進めば、ようやくあと少しで、この長い戦いから解放されるというのに。
それを、こんな下らないやり方で邪魔されたくない。
「あまり調子に乗るなよ」
「あなた達こそ」
「黒崎を止めろ」
「いや」
「止めろ!」
「っ、絶対嫌……!」
グッと強く押し付けられた刃物がゆっくりと首筋を滑り、冷たい感覚が痛みに変わった。
「いいのか。優しくお願いしているうちにうなずかなければ、本当に殺すぞ」
「悪いけど……わたしは、彼のお荷物になるくらいなら死ぬ方を選ぶ」
「なんだと…?」
「こっちはね、命掛けてあの人の隣にいるの。生半可な気持ちで、ずっと一緒にいたわけじゃない……」
最後は、ほとんど意地だった。
油断すれば、今にも恐怖で震えてしまいそうな声を、なんとか隠して見栄を張る。
大丈夫。
わたしが死んでも、最後に勝つのは彼の方。
その為に、出来ることならなんでもやった。
「宝条に言っておいてよ」
虚勢を張り、拘束された手にグッと力を込める。
「わたしは、あなたの思い通りにはならない」
彼の為なら、死んでもいい。
覚悟を決めて、ゆっくりと目を閉じた瞬間だった。
「———そういうことだよ」
「……ぇ……」
聞こえた声に、じわりと滲んだ涙で視界が歪む。
何で……?
どうやって……?
「助けに来たよ、名前」
「っ、……」
来てほしくなかったけれど、来てくれて本当に嬉しかった。
目が合った瞬間、優しく微笑んで名前を呼んでくれる姿に、堪えていたものが頬を流れた。