「しかし凄いよね、どうやったのこれ」
「黒崎くんのことを売るって近付いて、宝条の部屋に仕掛けた」
「スパイじゃん」
「カッコイイ?」
「うん。惚れ直した」

病院にベッドに座るわたしの横に腰掛けた彼が、そう言って笑った。

念の為。
お願いだから検査だけは受けて。

わたしが何度大丈夫だと言っても、彼は折れてくれず。結局、無理矢理受けた検査の結果は、ただの切創だった。


「これで、宝条のことを追い詰められる?」
「うん。この音声があれば、宝条が主導的に不正を行ったっていう証拠になる。充分すぎる材料だよ」
「そっか、良かった」
「ありがとう。本当に。名前には助けられてばっかだね」

宝条の元に潜り込んだ際、隙を見て仕掛けた盗聴器には、彼が自ら不正を行ったことが実証できるやり取りが録音されていた。

しかも、これはまだ彼の部屋に仕掛けられたままだ。
データを探れば、更なる証拠も出るかもしれない。

何かあった時の為にと、用意しておいたもう一つの端末を手渡すわたしに、彼は優しく目元を細めた。

「もう少しだよ」
「うん、」
「これが最後のチャンスだからね。集められるだけの証拠は全部集めて、アイツが言い逃れ出来る隙を潰すよ」

するりと優しく頬に触れた手は、そのままわたしの首筋へ降りる。

「黒崎くん、」
「ん?」
「………わたしは、どうしたらいい?」

ちょうど、昨日怪我をした傷口の近く。
包帯の上から、そこへ触れようとしていた彼の手が止まった。

「もういいよ」
「………」
「もう、充分だから」

ありがとう。

呟いて、再び頬を滑る手に口を噤んだ。

「名前が探し出してくれた情報のおかげで、宝条に金を作らせる理由が出来た」
「………」
「このデータもそう。名前が頑張ってくれたから、あと少しのところまで来れた」
「………」
「だから、もう大丈夫」

後は俺に任せて。

最後に一言。そう言って優しくわたしにキスをした彼が出て行ってから、すぐにあの刑事が病室を訪ねて来た。


「苗字名前さん」
「はい」
「黒崎はどこですか」

あの時と同じ。
険しい表情でそう聞いてくる彼に、わたしもあの時と同じように口角を上げた。

「警察の方ならご存知でしょう」
「お願いします、苗字さん……」
「その様子だと、今回は本当に知らないんですね」
「今俺たち警察が奴を保護しないと、黒崎は、殺されてしまうかもしれないんですよ……!?」
「………」
「黒崎が大切なら話してください!俺たちが、ちゃんとアイツを守るから!」


詐欺師と警察。

余りにも対極にいる二人なのに、いつの間にこんな関係になったんだろう。

立場を顧みず、必死に頭を下げる彼の姿を見て、思わず全て話してしまいそうになった。


「ありがとうございます。黒崎くんのこと、守ろうとしてくれて」
「俺は……」
「でも、ごめんなさい……居場所は、本当に知らないんです」

彼は、わたしに何も言わなかった。

別れ際、伝えられたのは、待ってて、という一言だけ。


きっと、全てが終わるまで、もう会うことは出来ないだろう。


「本当に、ごめんなさい……」

頭を下げ、それ以上何も言わないわたしに、彼も、もう何も聞いてはこなかった。