〜黒崎くんのヤキモチ〜



俺は今、猛烈に怒っている。

「っはは、くすぐった、ッや、」

目の前には、ニコニコ笑って無防備に寝転がる名前。

帰宅してからまだそんなに経っていないのか。
オフィス用の綺麗なトップスのボタンが途中まで外れているのは、多分アイツのせい。


「名前」
「あ、おかえりなさい」
「ただいま。何してんの」

寝転ぶ名前の横にしゃがみ込み、口角を上げる。

「っあ……クロと、遊んでて、」
「ふぅん。で、そのクロは?」
「えっと……」

気まずそうに目を逸らす名前の胸元で、ゴソゴソと動く何か。

柔らかそうなシフォン生地のトップスが、その動きに合わせて乱れるのと同時に、チラリと見えるレース生地。

「わっ、…」
「………」

言葉はなくとも、気配で何かを察したのか。

俺が顔を近付けると、尻尾を向けて下の方から逃げていくソイツに、名前がピクリと肩を揺らした。


「……妬けるんですけど」
「妬けるって、相手はクロだよ?」
「でも名前に触ってんじゃん」
「触ってるっていうか、これはただじゃれてるだけで、」
「それでもムカつく」
「っん、!」

上体を起こそうとした名前に唇を重ね、そのまま華奢な肩を掴んで押し倒す。

「っん、ちょ……、」
「なあに?もっとほしい?」
「言ってないよっ、」
「あは、聞き間違えちゃった」

ごめーん。なんて口だけの謝罪をしながら、見てくださいと言わんばかりに存在を主張するトップスの中に片手を滑らせた。

「ッ……あ、」
「ふはっ、かーわい。ほらこっち見て?」

恥ずかしいのか。
顔を背けて視線を逸らす名前の顎にそっと手を添える。

「困っちゃうなー。こっち向いてくれないとキス出来ないんだけど」
「頼んでないもん、」
「じゃあもうしないの?」
「しない」
「ふーん」

顎に逸えていた指を滑らせ、わざと顔を近付けながらその柔らかい唇に親指を這わせた。

「名前」
「ん、」

可愛い。

ゆっくりと動く俺の指に合わせて、恥ずかしそう顔を逸らす姿がたまらなくそそられる。

出来ることなら、今すぐこの小さい唇をこじ開けて、自分の唇を重ねたい。

「ねぇ、どうしてもダメ?」
「………」
「俺もう我慢できないんだけど」
「、や……ッ」

わずかに開いた唇に、優しく親指を捻じ込んで問いかける。

「名前」
「っ……や、これ…」
「じゃあなんならいいの?」
「ぜんぶ、やだ、」
「も〜、ほんとわがままなんだから」

そうやって無駄に意地張るところも可愛いけどね。

あんまりいじめると、恥ずかしがって怒っちゃうことも分かってるから。

仕方ないけど、今日は俺が折れてあげよう。

「名前」
「ん、」

不意打ちで唇を重ね、そのまま角度を変えて驚く名前の頬に手を添えた。

「、ん……っ」
「ふ、かわい、」

結局、最後は俺の服を掴んで甘えてくる名前の姿に、こうなってしまった原因すらどうでもよくなってしまった。