今時合コンなんて、
そんな非効率的なものに期待なんてこれっぽっちも無かった。
「泉くん」
「はい」
「隣座ってもいいかな?」
ほんとは嫌だけど。
素直にそんなことを言えば、
俺が悪者になるのは目に見えてる。
オシャレなドリンクを片手に可愛らしく首をかしげる女の子を前に
はあぁ、ともう何度目か分からない心の溜め息を吐いた。
「どう?良い感じの子いた?」
「別に。お願いだから早く帰らして」
「んなぷりぷりしなくてもさ〜
せっかくだし可愛い子と一発やってやろうとか思わないわけ?」
「そんな目的で来てんのお前」
「合コンなんてみんなそんなもんじゃん」
「………やっぱ帰る」
「ああぁー!ほら!あと一人!
遅れて来るって子いたじゃん!
その子が泉くんの運命の相手かもしれないよ!」
「も〜!分かったから離せって!」
人との距離感がおかしい同僚に抱きつかれ、
横を通る別卓のお客さんに頭を下げる。
くそ。
相手が学生の頃から仲の良いコイツじゃなければ、
今すぐにでも帰ってやるのに。
「あ、おかえり」
「おー」
「ちょうど女の子もう一人合流したとこだよ」
「まじ?ナイスタイミングぅ〜!泉、泉そっち行け」
「はいはい、」
行けばいいんだろ行けば。
行って適当に挨拶して、秒で帰ってやる。
ようやく俺の肩に回していた腕を離した友人から逃れ、
空いている席に座ろうとした時だった。
『あ、』
目が合って、慌てて立ち上がる目の前の女の子。
『すみません。来るのが遅くなってしまって』
「いや、」
『初めまして。△△〇〇です』
ピンと伸びた背筋に、サラサラの髪。
多分、こういう人を美人と言うんだろうな。
そんなことを思わせるくらいには綺麗な彼女が、
まるでお手本のように完璧なお辞儀をするから、
俺もつられて頭を下げてしまった。
『あ、どうぞ。座ってください』
「そちらこそ」
『ふふ、じゃあ一緒に座りましょうか』
「っすね」
なんだろう。
この子は、あんまり嫌な感じがしないかも。
にこやかに笑って、
飲み物を運んできてくれた店員さんにお礼を言う姿を見て
それまでのイライラがほんの少しだけ収まった。
「秘書か……納得っすわ」
『納得?』
「はい。所作が綺麗だと思って」
『あはは、ありがとうございます』
嬉しいです。
そう言って笑う間も、
しっかり口元に手を当てている姿が印象的で。
何でこんなところに来たんだろう。
知れば知るほど、不思議で仕方なくなった。
「仕事、忙しいんですか?」
『そこまでじゃないです。
ただ、今日は乗っていた新幹線が遅れてしまって、』
「出張……的な?」
『はい』
「へぇ。どこ行ってたんですか」
『大阪です』
「あ、俺学生の頃住んでました」
『え』
そうなんですね!
嬉しそうに声を上げた彼女が、
あ!と、思い出したように鞄の中を探ると
その手には、見覚えのある金色のアレがいた。
『これ、わたしのお気に入りなんです!』
「ふはっ、これがっすか?」
『はい!貰い物なんですけど、付けたら宝くじ当たったんです!』
「マジで?笑 それほんとにコイツのおかげなの?」
『え、違うんですか?』
「いや知らないけど、笑」
大阪の人なら、きっと誰もが知っているであろう福の神。
そのお世辞にも可愛いとは言えないキーホルダーを
こんな美人が、まさか金運の為に愛用しているとは誰も思わないだろう。
『なんだ……次は一万円くらい当てたかったのにな』
「待って。当たったっていくらなの?」
『三千円です』
「やっす!笑」
「二件目どうする?」
「あぁ、もうそんな時間か」
嫌々参加したはずの合コンだったのに、
気付けば、ずい分時間が経っていたらしい。
彼女のおかげだな。
俺、結構人見知りなのに。
初対面にも関わらず、
最後は友達みたいに笑い合っていたことに自分でも驚いた。
「〇〇ちゃんは?」
『ん?』
「二件目。行く?」
彼女が行かないなら、俺も帰る。
他に話したい子なんていないし。
逆に彼女が二件目に行くなら、
もう少しだけ一緒にいたいと思った。
『泉さん』
「ん?」
『わたしが帰るって言ったら、途中まで送ってくれますか?』
ガヤガヤうるさい居酒屋の中で、
不思議と、その声だけがクリアに聞こえた。
「ふはっ、もちろん」
『じゃあ帰ります』
ニコリと笑って、
嬉しそうに目を細める〇〇ちゃん。
これでこの子に落ちない方法があるなら教えてほしい。
二人分の飯代を幹事に預け、
早々に店を出るなり捕まえた手に指を絡めた。