「は?何言ってんだお前」
『だから、婚約は破棄したいって言ったの』
「何で急にそんなこと……」
『急にじゃないよ。ずっと思ってた』

話があるの。今から行っていい?

放課後。一方的に送り付けたメッセージの返事も待たず、急に訪れたわたしの言葉に、晴は不機嫌そうに顔を歪めた。

「納得出来ねぇ。理由を言え」
『…………』

本当は、わたしだってこんなこと言いたくなかった。

けれど、あんな風に誰かを思う晴の顔を見てしまえば、これ以上、このままの関係でいることの方が辛かった。

だから、機嫌を損ね、ぐっとわたしの腕を掴んだ晴の腕を、思いきり振り払った。


『………好きな人と、結婚したいの』
「…………ぇ」

だから、お願い。
もうこれ以上詮索しないで。


「……どういう、……ちょっと待て」
『………』
「お前、好きな奴いたのかよ……」
『………うん』

驚く晴の手が、もう一度わたしの腕を掴んだ。

「だったら、何でそれを早く言わねーんだよ」
『ごめんなさい、』
「悪かった、気付いてやれなくて」

あぁ、好きだな。

こんな時でも、わたしのことを思ってくれる晴の言葉に、今すぐ全部嘘だと言ってしまいたい気持ちを堪えた。

「婚約のことは、親父にも話してみる」
『ううん、晴からは言わなくていいよ』
「けど、」
『わたしが勝手に好きな人作って、勝手にやめたいって言ってるだけだから』

これ以上、晴の負担になりたくない。

そもそも、この婚約だって、口約束みたいなものなのだ。

互いの家に、何か特別な利益がもたらされるわけでもない。
ただ、同等の家庭で、生まれたのが同じ年頃の男女だったから。

それ以上に、わたし達を縛り付ける理由なんて無い。

『だから、安心して』

晴は、晴の好きな人の為に。

そして、自分の為に生きてほしい。

『じゃあ』

それだけ、と一方的に話を終えて立ち去ろうとするわたしに、またな、と声を掛けてくれた晴には、あえて返事をしなかった。