婚約破棄を申し出たからと言って、特別何か変わるかと言われれば、そうでもない。

晴とは、元々わたしから会いに行かなければ、話すことも無かったくらいだ。

時間が経てば、こうしていつか晴のいない生活にも慣れていくんだろうな、なんて。少し自棄になりかけていた矢先のことだった。


『………音ちゃん……?』

平日の昼間。学生であれば、まだ授業を受けているはずの時間に、彼女は、制服姿のまま街中をフラフラと歩いていた。


少し心配だが、友達という間柄でもない。

声を掛けるか否か悩んでいると、不意にこちらへ振り向いた彼女と目が合ってしまった。

「名前……さん、?」
『あはは……どうも、』



























『そっか。永徳でそんなことが……』

なんでもない。
だから失礼します。

そう言って、明らかに何かを隠そうとする彼女から、強引に全ての事情を聞き出した。

今までひた隠しにしてきた家庭のこと。
婚約者のこと。

そして、それを何者かに晒され、学園全員から非難されてしまったこと。

あの学園の内情を知っている者からすれば、彼女が庶民であるとバレた時点で、そんなことを企てるのは一人しかいないと思われるが、晴は人を使ってそんな事を企てるタイプではないし、そもそも、それが好きな子相手だなんて有り得ない。


もしかして。

少し考えたところで、数日前、喧嘩別れのようになってしまった少し強引な友人とのやり取りを思い出した。


『音ちゃん』
「はい」

まさか。
さすがの彼女もそこまではしないだろう。

一瞬脳裏をよぎった最悪の可能性を否定しながらも、思い出したのは、もともと愛莉が晴のことを好きだという事実。

『明日、永徳には行く?』
「そうですね。退学届……出さないといけないので」
『そっか、』

まだ決まったわけではない。

しかし、確かめるなら早くしなければ。

彼女と別れ、残っていた仕事をこなした後、すぐに掛けた電話は、結局愛莉に繋がることは無かった。