夢を見た。

幼い頃、仕事で忙しい両親に代わって、いつもわたしのそばにいてくれた神宮寺と、晴のこと。

歳は10歳も変わらないが、元々執事の家系で育てられた神宮寺は、出会った頃から所作も言動も全てが大人で。わたしと晴にとっては、良き兄のような存在だった。



「分かっていますよ。今回の件、晴様のせいではないでしょう」
「いや、元はと言えば俺が愛莉の暴走を防げなかったせいなんだ。江戸川………えっと、さっきの永徳の生徒のことで、色々とアイツを怒らせちまって、」
「そうですか」

多分、ここは病院だろう。

静かな声に耳を澄ませば、先ほどまで楽しそうに夢の中で笑っていたはずの晴が、申し訳なさそうに神宮寺と話している声が聞こえた。

「それで、名前の怪我は……?」
「幸い大事には至っておりません。ただ、頭への衝撃で軽い脳震盪を起こしてしまったようなので、今は………」
『………ぁ、』

そこまで言って、ちょうどこちらに振り向いた神宮寺と目が合ってしまった。


「ッ名前……!」
『…はると……』

「悪かった!本当にっ、本当に……!謝って済む問題じゃないってのは分かってる。けど、どうしてもちゃんと顔見て話したくて……」
『うん、』
「悪かった……ちゃんと、守ってやれなくて、」


結婚の約束をした時。

晴は、神宮寺に何度も言われていた。


「いいですか晴様、名前様とご結婚なされるなら、そのお命を掛けて、一生名前様をお守りください」

例え、それが子どもに対する口約束だとしても、晴がまだその約束を覚えてくれているような気がして、嬉しかった。


『ありがとう、わざわざ来てくれて』
「当たり前だろ。お前は大事な幼なじみだ」
『うん、』
「頭、まだ痛むか?…………ぇ、」

心配そうに、こちらをのぞき込みながら伸びてきた手がわたしの頭へ触れそうになった瞬間。なんとなく、その手を避けるように体を引いてしまった。

もちろん、晴はそんなわたしの行動にかなり驚いていたが、そのままその優しさを受け入れてしまえば、結局自分が辛くなるだけだと思ったのだ。


「名前……」
『ごめんね。体は大丈夫だけど、もう少し寝たいから』
「そうか、悪い。まだ万全じゃない時に、」
『ううん。晴は、ちゃんと音ちゃんのフォローもしてあげてね』

まだ何か言いたそうにこちらを見つめる晴から目を逸らし、布団に潜った。


「晴様」
「分かってる。もう行く」
『…………』
「名前」

特に言葉は無かった。

しかし、黙り込むわたしの頭に手を置いた晴は、そのまま、しばらくそこから動かなかった。