念の為一日入院し、病院を出てすぐ開いたスマホには、愛莉からたくさんのメッセージが届いていた。

ごめんなさい。
謝りたい。
仲直りしたい。

素直な彼女らしい真っ直ぐな言葉に返事を返すと、すぐに会って謝りたいと電話が来た為、後日会う約束をした。

わたしの中では、もちろん二人きり。
きちんと話して、晴とのことも改めて謝ろうと思っていたのに。


「あ、名前〜!おはよう!」
『え……愛莉、?』
「来てくれてありがとう!今日はね、愛莉のお詫びの会だから。ぜ〜んぶ愛莉に任せて!」

ね?と可愛らしく首をかしげる愛莉の後ろで、どうやら何も聞かされていなかったらしい晴と音ちゃんも驚いていた。

どういうことだろう。

愛莉が音ちゃんまで呼びつけ、このメンバーを集めるだなんて。


「じゃあ、とりあえず音は借りるから」
『え、』
「言ったでしょ。今日は愛莉のお詫びの会だって。その為にはまず、音にはちゃ〜んとわたしのおもてなしを受けてもらわないと」
「お、おもてなし、ですか……?」
「そう。だから二人はなんか適当に時間潰してて」

戸惑う音ちゃんの手を引き、そう言って強引にいなくなろうとする愛莉と目が合った。

「………笑」

綺麗なウインクは、おそらくわたしへの合図だろう。

隣にいる晴が、訳も分からず愛莉に文句を言っている声を聞きながら、まんまと二人きりにされてしまったことに溜め息を吐いた。


































「で?お前大丈夫なのかよ」
『うん、もうなんとも』

仕方がないから、時間を潰す為に晴と近くのカフェに入った。


二人きりになるのは、あの日、晴の部屋で婚約破棄の話をして依頼だ。

何を話して良いのか分からず、視線をテーブルに落としたまま黙り込むわたしに気を使ってか。先に口を開いたのは晴の方だった。


「最近、どうしてんだよ」
『……どうって?』
「どうはどうだろ。お前、婚約のこと話しに来てから全然顔も見せねーし。連絡だって、あれ以来一通もくれねーから、」
『うん』
「だから、うんじゃなくて、」
『晴に使ってた時間、好きな人の為に使ってるの』

あまり詮索しないでほしいから、晴が一番苦手な色恋の話にすり替えた。

本当は、そんな人いないのに。

わたしの言葉に、一瞬だけ不機嫌そうに顔を歪めた晴は、それでも、はぁ……と息を吐いて、安心したように呟いた。

「んだよ……お前、ほんとに好きな奴いたんだな」
『え……』
「俺はてっきり、俺に愛想尽かして、それっぽいこと言ってるだけなのかと思ってたから、」
『そうだったの?』
「おう。だから俺との関係が切れたら、もう連絡もしたくないのかと思って。これでも結構へこんでたかんだからな」
『…………』
「良かった。お前に嫌われてなくて」

残酷だなぁ、と思う。

例え婚約者という関係が無くなったとしても、わたし達の間にある幼なじみという関係が消えるわけではない。

誰よりずっとそばにいて、親よりも長い時間をともにしてきた。

その事実が、今になってこんなにも自分を苦しめることになるなんて。

これから先、わたしは、本当に晴から離れられるだろうか。


『晴、』
「お待たせー!」
「あ?待たせすぎだろ…………っえ、」

愛莉の声に、すかさず振り向いた晴の表情に胸が痛んだ。

「やっぱり……変?」
「……んなわけねぇだろ。……その、悪くねぇよ、」
「悪くねぇは晴の最大級の褒め言葉だから」

やっぱり、わたしはこの子に敵わない。

表情だけで、その気持ちが手に取るように分かってしまうこんな関係が、今は憎くて憎くて仕方なかった。


「ねぇ名前」
『ん?』
「この後ね、もう一回名前と晴を二人きりにしたいの」
『愛莉、やっぱりさっきの、』
「だから、ちょっと愛莉に着いて来て?」
『あい……』
「晴!音ー!わたし達ちょっとお手洗い行って来るから、先に入っててくれる?」
「そうか。分かった」
「じゃ、後でね!」

強引な愛莉に手を引かれ、二人とは反対の方向に歩き出す。

こういう時、無理に止めようとしたところで愛莉が聞いてくれないのは分かっている。だから、もう抵抗はしなかった。

「名前」
『ん?』
「愛莉は、例え名前がどう思おうと、愛莉のしたいようにするからね」
『………ぇ』

どういうこと?

的を得ないそんな言葉に戸惑っていると、急に掴まれていた腕を強引に引っ張られ、わたしは、彼女の前に倒れ込んだ。

『あい、り……?』
「大丈夫。晴と名前のことは、愛莉が守ってあげるから」

言葉と同時に、ニコリと綺麗に微笑んだ愛莉の姿に、背筋が凍るような寒気を覚えた。