「晴」
「おー」
「なーんだ、先に食べてて良かったのに」
「………江戸川は?」
「冷めちゃったね。今新しいの作り直させるから」
「おい愛莉、聞こえてんだろ。江戸川は?」
「…………」
「なら質問を変える。名前はどうした」
「………」

「愛莉」
「……晴は騙されてる。あの女に」
「お前、今度は何をした」
「馳天馬と晴、両方良いとこ取りしようとしてる悪魔だよ」
「答えろ!」
「こうでもしないと目覚さないでしょ」

パチン、と合図を鳴らせば、フロア内に隠していた大きなモニターが起動する。

4つある画面は、全て閉じ込めた馳天馬と江戸川音を映すもの。

「あははっ!ほら見て!二人っきりにしたらもうこれよ。分かった?晴が入り込めるところなんてないの」


今さら、婚約者であるあの2人の間には誰も入れないように、晴にだって、そういう相手がいるはず。


忘れたなんて言わせない。


「!?……名前っ………」


パチン、ともう一度合図をすれば、画面は別の部屋に切り替わる。


「お前っ……何で名前まで……!」


二人とは別の冷凍庫に閉じ込めた。

しかも、温度は先ほどの部屋よりも10度以上低い。

案の定、寒さで体力を奪われてしまったらしい名前は、入口の近くでぐったりと横たわり、ほとんど動かなかった。


「どう?晴のせいだよ。晴がちゃんと名前のこと守ってあげないから、名前、今にも死んじゃいそう」
「愛莉!」
「助けたい?いいよ、なら場所教えてあげる。でも教えるのはどちらか片方だけ。両方は教えない」
「テメェっ……!」
「ほら、どうする?早くしないとみんな死んじゃうかもね」

「分かってるよ。どうせ愛莉は名前を見捨てないって思ってるんでしょ?」
「…………」
「そうだよ。名前のことは好き。大っ好き。でもそれ以上に、愛莉はあの女のことが大嫌いなの。もし晴があの女の方を選んだら、あの女は、名前への罪悪感で一生幸せになんかなれないでしょうね」


自分のせいで、誰かが犠牲になったなんて知ったら。
きっと、あぁいう人間ほど罪の意識に囚われる。


「…………名前を助けた後、必ずあの二人も助けると約束しろ」
「しょうがないなぁ」
「愛莉」
「晴さ、前に名前が言ったこと、本気だと思ってる?」
「どういう意味だ」
「今さら好きな人が出来たから婚約を解消したいだなんて、あの子が言うわけないでしょ」
「は……」

お願い。

「もっと周りをよく見てよ」

晴は、他の女なんか見ずに、ちゃんと名前のことだけを愛して。

































『…………っ…』

寒い。

とにかく寒くて、体中が痛かった。

全身が冷え切り、指先の感覚はもうない。

かろうしで意識はあるものの、視界もぼけて歪んでいた。


どうして、こんな事になってしまったんだろう。


愛莉の考えていることは、よく分からない。

しかし、いつもわたしの為を思ってくれていた彼女のことだ。


きっと、婚約を破棄したことが許せなかったんだろう。

自分の気持ちを犠牲にしてまで応援してくれた。

それなのに、わたしがその気持ちを裏切ったから。

ちゃんと、応援してくれた分を返すことが出来なかったから。


『っ…あいり………』


ごめんね。
頑張れなくて。

諦めてごめんね。


「っ名前……!」
『……っ』


朦朧とする意識の中、最後に聞こえた大好きな人の声に、閉じた目の端から涙がこぼれた。