『え……愛莉が?』
「そうなんです。名前さん、何か知りませんか」

目を覚ましてからしばらく。

精密検査も終え、ようやく少し落ち着いたところで、血相を変えた音ちゃんが、海斗と一緒に病室へ飛び込んで来た。


「愛莉ちゃんって、名前の幼なじみだっけ」
『うん、そう、』


聞けば、昨日から家に帰っていないらしい。

愛莉のことだ。おそらくまた何か嫌なことがあったのだろうと想像はつくが、今回はその度合いが計り知れない。

もし、わたしの知らないところで今回のことが晴にばれ、酷いことを言われていたとしたら。


『………晴に、話しに行こう』
「でも名前体は、」
『大丈夫、』

わたしが行くより、絶対に晴が行く方がいい。


少し待ってて、と告げると、音ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げ、先に病室を出て行った。




































『晴、』
「名前………?」

急いで目的の部屋を訪れると、晴は突然現れたわたしの姿に驚き、目を丸くした。


「お前、体は大丈夫なのかよ」
『うん、もう大丈夫』
「なら良かった。愛莉のことは許さねぇ。話は俺がつけといた」

やっぱり。そういうことか。

酷く苛立った様子で、吐き捨てる様に告げた晴の前へしゃがみ込んだ。


『晴、』
「ん?」
『昔、愛莉と二人で見つけた工場、どこにあるの』
「え……」
『内緒で、秘密基地にしたんでしょ』


愛莉が、嬉しそうに話してくれた。

晴が、自分の為に学校をサボってまで一緒にいてくれたこと。

そして、その時二人だけの秘密基地を作ったということ。


昔から、わたしにだけはなんでも話してくれた愛莉が、唯一教えてくれなかったその場所が、きっと彼女が今いる場所だと思った。


「知らねぇな。そんな場所」
『晴、』
「お前も分かってんだろ。アイツは構ってほしくて面倒な行動に出んだよ」
『違う。愛莉は……っ』
「何でアイツを庇う。酷い目に合わされたのに」

そう言って、ジッとこちらを見つめる晴の顔は、苛立ちからか、酷く険しかった。

『あのね晴、愛莉は……』
「アレか。心配した大好きな恋人に会いに来てもらえて、むしろ感謝してるとか?」
『………ぇ』


なんの話?


「良かったな。平野………なんだっけ?忘れちまったけど、ベタベタイチャイチャできてよ」


わざとらしく逸らされた視線と、吐き捨てるようにぶつけられた言葉。

目の前で、こちらのことなど見えていないように鼻で笑う姿を見て、初めて"あぁ、晴に拒まれているんだ"と感じた。


「神楽木っ、あんた何言って、!」
『いいから』
「でも名前さんっ……」
『大丈夫。……もういいから。晴……お願い。場所だけ教えて』
「お前には関係ねぇ」
『……そっか、分かった、』

いくら問い掛けても、頑なにこちらを向こうとしない晴へ伸ばしかけていた手を引っ込めた。


名前を呼んでも、きっと、晴はもうわたしのことなど見てくれないだろう。


『ごめんね、休みの日にわざわざ』
「………」
『安心して。話はこれだけだから。行こう音ちゃん』
「でもっ、」
『愛莉はわたしが探すから』


晴には頼らない。


顔を背けて黙り込む背中に、精一杯の強がりで呟いた。


『……晴なんか、だいっきらい、っ———』