「さっすが名前!可愛い!」

用意された深い赤色の着物を身に纏い、イベント会場に足を踏み入れたところで、そっそく愛莉に抱き付かれた。

「晴達ももう来てるかな?」
『愛莉、ごめんわたしちょっとあっちで座……』
「あ、いたぁ!おーい晴〜!」

どうやら、わたしの声は聞こえていないらしい。

嬉しそうに、ぴょんぴょんと跳ねながら手を振る愛莉に、晴も気付いてこちらを向いた。


「なんだ、お前らもう来てたのか」
「ちょうど今名前と合流したところ」
「そうか。名前、体調は?大丈夫か?」
『うん、』
「なら良かった。それ、すげー似合ってる」

普段は絶対にそんなこと言わないのに、一体どうしたんだろう。

何故か妙によそよそしい晴の態度に戸惑っていると、そのままグッと距離を詰めるように近付かれ、思わず一歩後ずさった。


「名前」
『……なに?』
「話がある」

だから着いてこい、ということだろうか。

言うだけ言って、さっさと先を歩いて行く晴に、戸惑いはさらに大きくなった。


「ちょっと!なにボサっとしてんの」
『いや……』
「二人で話せる絶好のチャンスじゃん!」


そういえば、愛莉にはまだ何も話していなかった。

晴とのことは、彼女にもしっかり知っていてもらう必要があるのに。昨日の今日で、晴とは完全に終わってしまったということを、どう伝えれば良いだろう。


『あのね、愛莉……』
「ちゃんと話してくるのよ、名前の気持ち」


話すことなんて、もうないんだよ。

これ以上、何も進展しないわたし達の関係を応援し、背中を押してくれる愛莉の優しさに、胸が痛くなった。