『え……どういうこと?』
「だから、あの有名な学校……なんだっけ、えい……なんとか、」
『永徳学園ですか?』
「そう!それだ!」

その学園の近くで、何やらガラの悪い連中がたむろっていた。
あれ、そのうち通報されるんじゃないかな。

撮影開始までの待機中。
世間話がてらそう教えてくれたスタッフさんに断りを入れ、念の為晴に連絡をした。

この時間なら、まだ学園には着いていないだろう。

大丈夫かなぁ。

不安に思う気持ちが顔に出ていたのか。
あと30分くらいなら平気だよ、というスタッフさんの言葉に甘え、永徳学園まで様子を見に行くことにした。

相手は、わざわざ探すまでもない。
大きな正門の前で、女生徒をからかいながら笑う集団の奥に、見慣れた黒いジャケット姿の彼もいた。


「守ってあげないんですか」

近付けば、そんな晴の前には、見たこともない女の子。

誰だろう。


その口から発せられた突然の言葉に、晴は、ただ黙って立ちすくむだけだった。


「永徳を守るって言ってたのに、黙って指咥えてるだけなんだ」
「黙れ。クソ庶民」
「いつも偉そうにふんぞり返って、」
「黙れ」
「何がC5よ。何がcollect5よ」
「………」

「正しき5人なんて名前名乗る資格、あなたには無い!」

ほんと、しょうもない人!

『………』


一体、彼女と晴の間に何があったのかは分からない。

それでも、激しく激昂し、去って行く彼女のことを見つめる彼の姿は、明らかにいつもと違っていた。


『晴、』
「名前……?」
『行かないの?』


昔。わたしや晴が、まだ小さかった頃。
今と同じように、大人に絡まれる海斗を見つめて、何も出来なかった晴に、同じことを言った人がいた。



『ねぇ晴!行こうよっ、このままじゃ海斗が、!』
「でも、」
『友達でしょ!海斗がどうなってもいいの、?!』
「それは、良くないけど……」
『っもういい!わたし一人で行く!』
「あっ……」

何を言っても動かない晴を置き去りに、走り出すわたしの手を掴んだのは、見たこともない男の人。

「チッ……ったく、しょうもない野郎だなお前」

呟いて、あっという間に男3人を倒してしまったその人の姿は、今でもわたしの脳裏に焼き付いている。

「仲間がやられてんのに、黙って突っ立ってるだけか」
「だって……僕なんかじゃ何も……」
「じゃあ強くなれ」
「………」
「大切なものを守る為には、強くなるんだ」『晴……』
「僕、強くなります」

あの日、隣にいたわたしの手をしっかりと掴んでそう言った晴に、その人———道明寺司さんは言った。

「頼んだぜ。永徳を」

これが、あの道明寺さんと晴の約束。
そして、晴をここまで永徳に執着させる理由だった。


『晴、』
「俺は……」

きっと、彼も昔のことを思い出しているんだと思う。

「強く……」

胸に手を当て、小さく呟いた晴の声は、あの頃と同じ。とても強い、決意に満ちた目だった。