『え……消えた?』
「そう!晴くん、お昼まで一緒だったんだけど、まだ家にも帰ってないらしくて、」
『子どもじゃないんだし、そのうち帰って来るよ』
「違うの!今日食事会で、晴くん、お父さんに酷いこと言われて、」
『え、』
「やっぱり、名前も知ってるんだね。お父さんのこと」
突然の来客は、酷く焦った様子のめぐみだった。
「ねぇ名前、晴くんが行きそうな場所、本当に心当たりない?」
『………ごめん』
「そっか。わたしこれから仕事だから、もし連絡あったら教えてくれる?」
詳しいことは分からない。
しかし、どうやら本人達には一切知らされず、親同士で婚約の話が進められていたというのだ。
もちろん、晴もめぐみもその事には反対し、二人で食事会を抜け出したまでは良かったのだが、その時から晴の様子がおかしかったらしい。
心配そうに、今にも泣きそうな顔でわたしの手を握る彼女には協力してあげたいが、何をどうすれば良いのか分からなかった。
『あの、めぐみわたし、』
「名前かわたしなら、まだ名前だと思う」
『え、』
「とにかく!何か分かったら連絡してね!」
じゃ!と急ぎ足で去っていく彼女に、そんなことないと返す暇さえ無かった。
もう関係ない。
晴がどこで何をしていようが、わたしにはなんの関係も無いのに。
それでも頭に浮かぶのは、お父様のことで酷く落ち込む晴の姿だった。
「名前、ほんとは心当たりあるんじゃないの?」
『紫耀くん……聞いてたんだ』
「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど」
『無いよ』
晴が落ち込むことはよくあったが、それは彼の部屋であったり、わたしの部屋であったり。
幼い頃から一緒にいても、あのお屋敷以外での行動範囲なんて分からない。
『晴のことだから、きっとすぐ帰って来るよ』
友達だって、C5以外にはいないのだ。
そのC5にさえ弱いところを見せない晴が、他に行くところなんて———。
『…………ぁ』
人に弱いところを見せたがらない晴が、唯一弱音を吐ける相手だった人。
正解には、それは人ではなく、人の形をしたホログラムだったが。あの人だけは、確かに晴の心の拠り所であり、目指すべき場所だった。
「行ってあげれば?」
『紫耀くん……』
「心配なんでしょ。アイツのこと。いいよ、幼なじみとして行くなら、許してあげる」
表情はにこやかだが、きっと無理させている。
わたしが罪悪感を感じないよう、必死にそう言ってくれているのを分かっていながら、どうしてもその優しさに抗えなかった。
「名前」
『………』
「待ってるから」
うん、と小さくうなずくわたしに、紫耀くんはいつも通り笑うだけだった。