紫耀くんのご両親との食事会までは、あと数日。
それまでにきちんと覚悟を決めなければと気負いすぎていたせいか、普段なら数十分で終わるはずの撮影が、倍近くかかってしまった。
『はぁ…………』
情けない。
その日が近付けば近付くほど、不安で疲弊していく心に、思わず溜め息を吐いた時だった。
「名前?」
『え……晴?』
目の前に現れたのは、ジャージ姿で額に少し汗を浮かべた晴。
「お前、何してんだよこんな時間に」
『あ、えっと……たまには少し歩こうかなって』
「もう夜だぞ。どうやってアイツの目盗んだんだ」
『…………』
「顔見りゃ分かる。なんかあったんだろ。神宮寺には俺から言っといてやるから、一緒に帰るぞ」
『………うん』
隣に並んで、歩幅を合わせながら歩いてくれる晴には、きっと何を言っても無駄だと思った。
だから、今だけはその優しさに甘えて、ほんの少し気を抜いても良いだろうか。
「疲れ……だけでそんな顔してるわけじゃねぇよな」
『さぁ、どうだろう、』
「なんかあったんだろ、全部話せよ」
『うん………』
「幼なじみだろ、俺たち」
「———つまり、お前は週末の食事会で、平野紫耀の両親に紹介される。だから緊張して冴えねぇ顔してんのか」
根本的な理由はもっと別のところにあるが、広くまとめればそれで間違いは無いと、言われた言葉にうなずいた。
「なるほどな。自信がねぇわけだ」
『まぁ、』
「くっだらねぇ」
うつむくわたしに、呟いた晴の声はぶっきらぼうだったが、それでも、言葉と同時に頭へ乗せられた手は優しかった。
「言っとくけどな、お前は……俺が好きになった女なんだぞ」
『え………』
「忘れたとは言わせねぇからな。俺の一世一代の告白を、あんなにアッサリ断りやがって」
『それは………』
「別に今さら未練がましいことは言わねぇけどよ、少なくとも、お前はこうやってちゃんと誰かに愛されてんだ。俺よりずっとしっかりしてるし、なんでも出来る。それに、あんなに美味ぇ野菜炒めも作れるしな」
『………なにそれ』
本当に、下手くそな慰めだと思う。
けれど、その晴らしい言葉が何よりも嬉しかった。
『ありがとう、晴』
「おう」
立ち止まり、わたしの頭に置かれていた晴の手を取る。
『晴は、やっぱり最高の幼なじみだよ』
「……おう」
コツンと、無理矢理ぶつけた拳に優しく微笑んでくれる姿に安心した。
大丈夫だ。
わたし達、ちゃんと幼なじみになれてる。
『日曜日、めぐみによろしくね』
「あぁ」
自宅に到着し、わたしが中に入るまでずっと見届けてくれた晴に、最後に一度だけ振り向き、手を振った。