『———うん、だから少し待ち合わせ時間遅らせても大丈夫?』
「うん。全然いいよ。何時くらいになりそう?」

電話をしながら送迎用の車に乗り込み、待ち構えていた神宮寺に出発の合図を送った。


今日は、かねてから予定していた紫耀くんのご両親との食事会だ。

本当は、お昼に合わせて準備をする予定だったが、誕生日会のことを聞いた神宮寺が早めに支度をしてくれたおかげで、約束の時間まで余裕が出来た。



「それでは、また30分後に」
『うん』
「晴様。くれぐれも名前様をよろしくお願いしますね」
「わ、分かってるよ」


永徳の正門前まで迎えに来てくれた晴に、薄く笑みを浮かべる神宮寺は楽しそうだった。


『ふふ、晴、まだ神宮寺のこと苦手なんだね』
「うるせぇ。寒気がすんだよ、あの笑顔見てると」
『ひどい笑 神宮寺泣いちゃうよ?』
「んなわけあるか。あの鬼執事に限って」


どうやら、相変わらずのようだ。

顔をしかめて文句を垂れる晴のことを見ていると、まるで昔の晴を見ているようで笑ってしまう。



「それより、ありがとな」
『ん?』
「忙しいのに、わざわざ時間作ってくれて」
『ううん』
「アイツ、すげー喜んでた」


めぐみのことを話す時、晴の表情が少し優しくなったのは、気のせいじゃないと思う。


『今日のパーティー、晴が中心になって企画したんでしょ』
「おう、まあな」
『めぐみ、すっごく喜んでたよ』


きっと、このまま上手くいけば、二人は恋人同士になるはずだ。

めぐみは良い子で、晴も、きっとそれに気付いているから。


『パーティー、成功するといいね』


笑いかけると、少し照れ臭そうにうなずいた晴の姿に、胸がきゅっと締め付けられた。


ダメだなぁ。
まだ残ってる。

いつまで経っても、不意に顔を出す晴への気持ちに、再び自己嫌悪で落ち込んでしまいそうな時だった。



「ッ名前……!!」
『ぇ………』


晴が叫んで、急に視界が一転する。


なに?
訳も分からず頭ごと抱き締められ、そのまま地面へ倒れ込んだ。



「名前っ……!名前大丈夫か?!」
『…………はる、と……』



必死の形相で顔をのぞき込んでくる晴に、言葉を返す間も無く、その腕から血が流れていることに気付いてしまった。


分からない。

何が起きているのかちっとも理解出来ていないのに、正直すぎる体はすぐに動かなくなり、晴の腕にしがみ付くことで精一杯だった。



「ッ………何者だテメェ、止まれ」
「お前こそ……その子から離れろ」
「無理に決まってんだろ」
「っ、離れないなら殺すぞ……」
『………っ』
「離れないなら、本当に……」
「やってみろ」
『ッ…………』
「やれるもんなら、やってみろよ!」


言葉と同時に、ぐっと押し付けられた頭が晴の胸に埋まる。


怖くて、どうすれば良いか分からない。



晴が危ない。


やめて。

来ないで。



『…………いや、っ……』



殺される。

そう思ったのは、ほんの一瞬だった。



「ッ!?てめぇっ……!」



晴の気迫に押されたのか、踵を返し、一目散に逃げていく男を追おうとする背中にしがみ付いた。



『晴っ………!』
「ッおい名前、離せ!」
『だめ、絶対だめ……っ』
「けどアイツがっ、」
『そんなことどうでもいい!』


犯人がどこの誰かなんて、どうでもいいから。


『お願いっ……これ以上………怪我しないで、っ』