『ごめんなさい………わたしのせいで』
「何言ってんだ。お前のせいじゃねぇだろ」
『でも、』
「男が女守るのなんて当たり前だ。謝ることなんてねぇ。………それより、お前食事会は何時だ。この後行く予定だったんだろ」


わたしを守り、傷付いた晴の腕に視線を落とす。


「名前」
『………』
「聞いてんのか」


時刻は午前11時。
約束の時間には、急げば間に合うかもしれないが、もうそんな気力残っていなかった。


そもそも、襲われた拍子に破れたワンピースには、血や泥も付いている。

相手は婚約者のご両親だというのに、こんな酷い格好で会えるわけがない。


黙り込み、うつむくわたしに全てを察したのか。
チッと舌打ちをした晴が、強引にわたしの腕を掴んだ。


『?!晴っ……待ってよ、!どこに、』
「決まってんだろ!平野紫耀のとこだよっ」
『でもわたしっ………』
「うるせぇ!行くっつったら行くんだよ!」


いいから走れ!と、猛スピードで前を走る晴に、反論する隙さえなかった。


ブランド物の細いピンヒールで、男の子の晴と同じように走れるわけないでしょう。


『晴っ………』
「うるせぇ!いいから行くんだよ!」


繋がれた手を離そうとするわたしと、その腕を握り直す晴。


違う。そうじゃないの。

息が乱れて言葉に出来ないまま、繋がれた手に力を込めるけど、晴は、やっぱりそんなことでは止まってくれなかった。


『っ、……』
「名前、?!」


バランスを崩し、盛大に転んだわたしの足元に、脱げたヒールが転がる。


「おいっ、名前立てるか……」
『ありがとう、』
「は?」
『晴、ごめんね、』


ここまで一緒に走ってくれたのに、その優しさに応えられなくて、ごめんなさい。


痛む足を庇いながら、もう戻って、と小さく呟いたわたしに、晴は黙って背を向けた。


『…………なに、』
「乗れ」
『え………』
「いいから乗れ」


背を向けたまま、ゆっくりとしゃがみ込む晴と目が合う。


『晴………』
「ごちゃごちゃ言ってねーで早く乗れ!お前のことは、俺がちゃんと送り届けてやるから!」
『でも、』
「いいから!俺を信じろ!」


怪我した腕に、痛々しく巻かれた包帯。
道端で転んだわたしなんかより、刃物で傷付けられた晴の方がずっと痛いはずなのに。

それでも、晴が大丈夫だと言ってくれるなら、大丈夫だと思えてしまう。

このまま、この背中に身を委ねてしまいたいと思ってしまう。


『はると………』
「んだよ、」
『ありがとうっ、』


どうか、今だけは、
この大きな背中にすがることを許してほしい。