「お怪我の調子、如何ですか」
『うん………』
「うん、では分かりませんよ。月末には渡仏されるんですから、この機会にしっかりとご準備を進めていただかないと」
『うん、』
「心ここに在らずですね」


紫耀くんのご両親との食事会は、軽い挨拶のみで幕を閉じた。

事情が事情だ。わたしが怪我をしていたこともあり、何も気に病むことは無いからね、と笑ってくれたご両親にはとても救われたが、その一方で、受け入れ難いこともあった。


「名前様」
『うん……』
「先日、名前様と晴様を襲った犯人についてですが、」


事件から2日。犯人は未だ捕まっておらず、わたしのそばには、常に神宮寺が護衛を兼ねて帯同するようになっていた。






「———本当に大変だったね、」
『ううん。わたしよりめぐみだよ。ごめんね、誕生日、ずっと楽しみにしてたのに、』
「も〜、何回も言ったけど名前は悪くないんだし、晴くんもすぐに戻って来てくれたんだから大丈夫!何事も無かったでオッケー!ね?」


実際は、わたしのせいで晴に怪我をさせた。

なんの関係も無いめぐみの誕生日パーティーは、警察沙汰にまで発展した。

これで何事も無かったというには、あまりにも無理があるが、それも彼女なりの優しさだ。


今は与えられた仕事をきちんとこなさなければと、目の前のカメラに視線を向けた時だった。


「めぐみ」


聞き慣れた声が、自分ではない誰かのことを呼んでいた。


「晴くん!?何でここに?」
「うちのスーパー執事、小林に調べられねぇ事はねぇ」

そう言って、自慢げに笑う晴の視線の先にいたのは、めぐみだった。


「考えれてみれば、俺、お前のことなんにも知らねぇから。どんな仕事してるのか見てみたかったし」

それに……と呟き、一瞬だけこちらに向けられた視線が外される。

「デートプラン、結局まともなもんが思い浮かばなかったから。だから、その分出来るだけ長くめぐみと一緒にいる。お前を喜ばせる方法、その中で見つけていくから」


そっか。そうだよね。

わたしが紫耀くんと歩いて行くことを決めたように。晴だって、きちんと前に進もうとしているんだ。

相手が誰でも、いつも真っ直ぐな晴らしいその言葉に、めぐみも嬉しそうだった。


「名前」
『ん?』
「足はもう平気なのか?」
『うん。もう大丈夫。晴は?』
「あぁ。俺ももうなんともねぇ」
『そっか。良かった』


晴には、出来ればもう何も心配してほしくない。

ただでさえ、わたしと一緒にいたせいで負わなくても良い怪我を負ったのだ。叶うなら、一刻も早く事件のことなど忘れ、めぐみとの時間に全てを費やしてほしいが、現実は、そう上手くはいかなかった。