「———というスケジュールですので、明日は朝から学校に、」
『待って』
「名前様?」

用事を終えた帰宅中。
退屈な車内の窓から見えた光景に、目を疑った。

『晴がいたの、』
「晴様が……?」

こんな時間に一人で。
しかも、何故か白いタキシード姿で全力疾走していた。


「あの、」
「俺は、テメェのことなんか好きでもなんでもねぇ!」
「………は、」
「助けてやったからって調子に乗んなよ、ド庶民が!」

『…………』

話が読めない。

車を戻し、ようやく晴を見つけたまでは良かったが、その隣には、何故か今朝の女の子。

しかも、わたしの知らない間に、また何か一悶着あったらしい。

「ちょっと待って。なんの話?」
「だから、俺が庶民を好きになるはずがねぇって言ってんだよ!」
「はあぁ?」
「そもそも、俺には名前という完全無欠で超超パーフェクトな婚約者がいるんだ。勘違いすんじゃねーぞ!」
「勘違いなんてする訳ないでしょ?だって……」
「だってなんだよ!」
「わたし、婚約者がいるから!」
「っ婚約者ぁ?!」
「はっ……!」

一体、何がどうしてこんな話になったんだろう。

ヒートアップする二人の間に入ることも出来ず、すっかり置いてけぼりをくらっていると、そんなわたしの後ろから、もう一つ足音が聞こえた。

「名前さん」
『え、』
「やっぱり。音もいる」
「………馳、天馬?」

突然現れた第三者の声に、晴も気付いてこちらを向いた。


「こんばんは。神楽木くん……だよね?」
「へぇ、俺のこと知ってんだ」
「もちろんです。永徳学園のC5の話は有名ですし。それに……」

そこまで言って、意味ありげにこちらを見つめた彼にドキリとする。

「それに………なんだよ」
「いや?笑 別に」

どうやら、黙っていてくれるらしい。

親同士の付き合いで、年に数回顔を合わせる程度。
晴とも面識はないと知っていたから、好きな人の話として名前を出していたのに。

まさか、それをこんなところで後悔することになるとは思わなかった。

「お前ら知り合いかよ」
「まぁ、そんなところです。親同士の付き合いで何度か」
「そうじゃねぇよ。名前じゃなくて、こいつと知り合いなのかって聞いてんだよ」

そう言って、晴が視線を向けたのはあの子の方。

急に話を振られて、何かを誤魔化すように言葉を濁すのが気になったが。それを追求するよりも早く、ぼっちゃ〜ん!というよく聞き慣れた声が、その場の会話を中断させた。


「小林……?」
「お屋敷を飛び出した坊ちゃんを発見!医療班は至急救護に!」
「っな、!?ばか!離せっ……!」
「取り乱されるのも当然です。あんな肉の塊で殴られたんですから」
『え……?』
「だから、取り乱してなんかねぇって、!」

離せ!と暴れる必死の抵抗も虚しく、晴は、そのまま小林さんによって連行された。


「肉の塊って、一体どういう……」
「あ、っあの、それは……」

気まずそうに目を逸らす彼女の姿を見て、それが事実であることはすぐに分かった。

きっと、また晴が何かしてしまったんだろう。

詳しいことは分からないが、申し訳無さそうにわたしを見て頭を下げるその子に、ニコリと笑って会釈を返した。


「名前!おいお前からも言ってくれ!」
『ん?』
「俺は普通だって!治療なんか必要ねぇんだよ!」
「坊ちゃんお気を確かに」
「充分確かだっつーの!」
『ふふ、』
「おい名前!テメェ笑ってんじゃねぇ!」

必死の形相で、ジタバタと暴れる晴は相当怒っている。

しかし、そんなことは意にも介さず彼を心配する小林さんが、そのまま車に乗り込もうとした時。

あの!と、声を掛けて来たのは、先ほどここを去ったはずの女の子だった。

「……なんだよ」
「紺野さんのことは許したわけじゃないけど、ありがとう助けてくれて、」

わたしには、なんの事か分からない。

しかし、それだけ言って去ってしまったその子を見つめていた晴には、何か刺さるものがあったらしい。

「………ッう、」

胸元を押さえ、急に苦しそうな声を出す晴の姿に、わたしも周りも驚いた。

『晴、?』
「うっ………胸が……」

分からない。

これは、一体どういうことなんだろう。

「名前っ………」
『晴………』

わたしを見つめて、急に不安げに視線を揺らす晴の姿に、心臓がドクンと嫌な音を立てた。







































「———おかしいよね?最近の晴」
「……ぇ」
「それって晴を脅してるとかいう女のせい?」
「何でそのことを、」
「杉丸詰め寄ったらすぐ吐いた」
「アイツ………」

「で?その女って一体どこの誰?」
「俺じゃなく、晴に聞けよ、」
「分かってんでしょ?愛莉の気持ち」
「………」
「永徳がどうなろうが正直どうでもいい。高等部進んだのも、C5入ったのも、全部ぜーんぶ晴と名前の為。だから、あの子を苦しめる女見つけて吊し上げないと、気が済まない」
「っ……」
「愛莉はね、名前の為に晴から身を引いたんだから」