多分、わたしはまだ晴のことが好きなんだと思う。
けれど、晴にはめぐみという恋人がいて。
わたしには、紫耀くんという婚約者がいる。
今は辛くても、どうせすぐ離れ離れになるのだ。
時間とともに、この胸の痛みもいつかは薄れていくだろうと思えば、それなりに、今を生きることは出来た。
「名前」
『紫耀くん。おはよう』
「うん。おはよ」
いつも通りの笑顔で、優しくわたしを迎え入れてくれる紫耀くんにホッとした。
彼とは、この先長い人生を共にしていくのだ。
例え何があっても、きちんとお互いのことを分かり合い、受け入れる為の努力をしていきたい。
それが、わたしの出した答えだった。
『昨日のことは、まだ整理出来たわけじゃないし、弟さんのことも許せない』
「うん、」
『正直凄く傷付いたし、悲しかった。…………けど、やっぱりわたしは、誰にでも分け隔てなく優しい紫耀くんが好きだし、そういう紫耀くんに、何度も救われてきた』
だから、晴とのことで、どんなに辛くても前を向けたし、紫耀くんがいてくれたおかけで、こうして笑っていられた。
『たった一度のことで、それを全部無かったことになんてしたくない』
「名前………」
『紫耀くんと、ずっと一緒にいたい』
晴以外に、初めてそう思えた人だから。
大切にしたい。
きちんと向き合って、なんでも一緒に乗り越えていけるようになりたい。
「ありがとう」
遠慮がちに回された腕を受け入れ、わたしも、紫耀くんの背中に腕を回した。
「ふは、なんか照れ臭いわ」
『うん、』
「じゃあ、次は俺の話ね」
実は、と改めて体を離し聞かされたのは、信じ難い言葉だった。
『え………』
昨日の夜。晴と話しているところに母が現れ、二人に勝負を持ち掛けたというのだ。
しかも、競技は弓道。誰の目にも、晴に勝機が無いことなんて明らかだった。
『どういうこと?何で急にそんな話に、』
「うん。俺も驚いた」
『受け入れることなんてないよ。どうせ大した理由もないのに』
「そうかな」
『え、』
「理由はともかく、俺にとっても良い機会だったんだよ。晴くんと勝負出来るなら」
勝手に決めてごめんね。
そう言って、申し訳なさそうに眉を下げた紫耀くんに首を振った。
『わたし、』
「ん?」
『紫耀くんを応援するね』
きっと、それが正しい答えだ。