晴が何を考えているかは分からない。
しかし、持ちかけられた勝負に乗ったということは、勝つもりなのだろう。
それが、単に紫耀くんを負かしたいだけなのか、自分のプライドの為なのかは知らないが、わたしは、晴が勝っても、その事を喜ぶつもりは無かった。
「いいんだ、それでも」
『え、』
あの日から数日。自室で留学の準備を進めていたわたしのところにやって来た晴は、少しいいか、と母が提案した勝負のことを切り出した。
「別にこの勝負に勝ったところで、お前の気持ちが手に入るなんて思ってねぇよ。名前は名前の好きにしていいんだ」
『なら何で、』
「もう、自分に嘘は吐きたくねぇから」
『嘘………?』
「あぁ」
こちらを向いて、優しげに笑った晴と目が合う。
「俺は、やっぱりまだお前のことが好きだ」
『え…………』
「だからこの勝負で平野紫耀に勝って、お前の母親にも、俺の親父にも、全員に認めてもらった上で、また告白する。俺がそう決めたから、お前には、ただそれを見守っていてほしい」
以前とは違う、優しく、大切に紡がれたその言葉に、胸が締め付けられた。
知らなかった。
晴が、こんな顔をするなんて。
「名前」
『……ん、』
「俺は勝つ。それで、またお前に伝えるから」
だから………。
呟いて、わたしの手に自分の手を重ねた晴が、真剣な表情で告げた。
「最後まで、ちゃんと見ててくれ」
自分で、好きにしていいと言ったのに。
そんなの、俺を見てくれと言っているようなものじゃないか。
『晴、』
「ん?」
重ねられた手に、一瞬だけ自分の指を絡めた。
『頑張ってね』
「え………」
晴に何を言われても、わたしが応援するのは紫耀くんただ一人だ。
しかし、こんなにも真っ直ぐ自分を貫こうとしている晴にも、正々堂々、悔いのないよう戦ってほしかった。
「ありがとう」
『うん、』
「俺、絶対に勝ってみせっから」
晴は、そう言って絡めた指を、一瞬だけきゅっと包み込むように握り、部屋を出て行った。