「なるほど。だからあの子、朝からあんなに機嫌が悪かったの」
「そういうこと」
「新学期早々よくやるわ」



朝の騒動から数時間。クラスメイトと一緒に食堂のランチを選んでいると、そういえば、と、リドルのことについて聞かれたので、簡潔に今朝までの流れを話すと、納得したように溜め息を吐かれた。



「でも、ヴィルだって人のこと言えないんじゃない?」
「あら、どういう意味?」
「ルークに聞いたの。ポムフィオーレに入った一年生をボコボコにしたんでしょ?」
「ボコボコ?何を言ってるの、あれは教育よ」


したり顔で、にやりと口角を上げるあたり、その一年生を力でねじ伏せたのは事実なんだろう。この二日間で一体何があったのかは知らないが、ご愁傷様である。



「それよりリオ、ハーツラビュルのお茶会があるなら、今日はもう少し脂質を抑えたらどう?後で後悔しても知らないわよ」
「う、」
「ちょっと、そんな油の塊私に押し付けないで」


バイキング形式なのを良いことに、好きという理由だけで選んだ唐揚げを自分の皿に戻される。


「野菜取ってこようかな」
「良い心掛けね」


自他共に認める美のカリスマが、そう言って黙々と緑を食す席から立ち上がろうとした時。ちょうど少し先のテーブルで、見覚えのある一年生と食事をしていたらしい一人と目が合う。



「リオちゃ〜ん!」

「はあ……うるさいわよケイト」
「あはっ、ごめんヴィルくん。ちょっとだけリオちゃん貸して?」


人当たりの良い笑顔でそう言われるも、早々に食事に戻る彼は、既に我関せずである。



「ヴィル………?って、確か、」
「そう!ヴィルくんはさっき話してたポムフィオーレ寮の寮長で、リオちゃんは仲が良いんだよね」
「へー」
「仲が良いっていうか、三年間同じクラスなだけだよ」



確かに、同じ寮長ということもあり、人より話すことは多いが、方や世界的に活躍する超売れっ子の芸能人である。仲が良いとはおこがましい。



「ていうかリオ先輩」
「ん?」
「な〜んで朝助けてくれなかったんすか。おかげで俺たち、酷い目にあったんすけど」



むうっと頬を膨らませ、不機嫌そうにこちらを見つめる赤髪の彼は、確かエースくん。



「あら、ごめんね」
「ごめんで済んだらこんな怪我しなかったんすけどー」
「おいエース、それはリオ先輩のせいじゃないだろ」
「でも怪我は怪我だし」
「ただのかすり傷で何言ってんだゾ」



その言葉通り、彼の手には、朝には無かったはずの小さな傷が出来ていた。それは、本当に小さな、放っておけば、すぐに治ってしまうくらいの傷ではあったが、なるほど。彼にとっては、納得がいかなかったらしい。



「エースくん」
「なに」
「手貸して?」
「は、?」



それならばと、未だむっとしている彼の手を取り、そこに自らの手を重ねた。




「ーーーーーーーー」

「え………」



呟くように、小さく詠唱を唱えると、彼の手にあった傷はすぐに塞がり、跡形もなく消えていく。時間にして、ほんの数秒のそれを見て、エースくんは、まるで信じられないものでも見るように、わたしの方を見つめた。



「…………すっげ」
「これでもう痛くないでしょ?」
「や、痛さは別に、最初からそんなに……」
「ふふ、じゃあほんとに、ただ拗ねてただけか」
「ッ?!」



笑って言うと、分かりやすく顔を赤くする彼に、デュースくん、ユウちゃんが笑いをこらえているようだった。



「ごめんね、これで許して?」
「っな……別に、俺は、!」
「エースちゃんいいな〜。リオちゃんのそれ、なかなか見れないんだよ」
「へ………」
「だってリオちゃん、滅多にそれ使わないから」
「ま、まじっすか?」
「うん」



厳密に言えば、傷を治す魔法ではない。
しかし、だからこそ、あまり人前では見せないそれを使ったことに気付いたらしい彼が、こちらへ向かってくるのが分かった。



「こらリオ、無闇矢鱈にそれを使うんじゃないわよ」
「ヴィル、見てたの?」
「えぇもちろん。最初から最後までね」
「ふふ、恥ずかしい」
「そういう"見てた"じゃないわよ」
「いっ、」



ペチッと、その長い指でおでこを弾かれ、反射的に目を瞑る。



「分かったらさっさとランチにするわよ」
「はーい」



じゃ、またね。と、ハーツラビュルの面々に手を振り、別のテーブルで、既に食事を始めていたヴィルの正面に腰掛けた。




「……………なんていうか、オーラが凄いな」
「ヴィルくん?」
「も、そうですけど、リオ先輩も、」
「まあ、二人とも美男美女だからな」
「おまけに寮長で成績も良いしね。けーくん調べによると、まず間違いなく学内のナンバーワンモテコンビがあの二人」
「へぇ」
「だから覚悟しといた方がいいよ〜?もしリオちゃんのこと好きになっちゃったら、大変だから」
「えッ!?」
「…………でしょうねー」