自分で言うのもなんだが、わたしは、割と慕ってもらっている方だと思う。
「ちょ、レオナせんぱ、」
「動くな」
「でも、っ」
違う。決して、そういう慕われているではない。
遡ること数時間前。授業終わりのチャイムと共に教室を出ると、そこには、自分を待っていたらしい一年生達がいた。
要件は、リドルに謝りに行く為のケーキ作りの手伝い。特に予定があったわけでもないので、それくらいならいいか、と、すぐに承諾したのだが。材料集めの栗拾いすら始める間もなく、わたしは、ある人物に捕まった。
「レオナ先輩」
「あ?」
マロンタルトの材料を集める為、道具を探しに向かったユウちゃんとグリムに着いて行くと、ものの数分で、二人は虎の尾を踏んでいた。ーーーーーいや、正確には獅子の尾だが。
「んだよリオ、テメェの連れか」
「ウチの一年生の友人です。新入生なので、あまり怖がらせないでください」
「あ?俺はなんもしてねぇだろ。ソイツらが勝手に人の縄張りに踏み込んできたんだ」
「縄張りって、ここはレオナ先輩の部屋じゃないんですよ」
怯える二人を背中に隠し、敵意剥き出しの先輩………訂正。同級生に向かい合う。
「二人が何かしたなら謝りますから、もう行っていいですか」
「あァ。勝手にしろ」
「じゃあ、」
「お前は残れ」
「は、」
「聞こえなかったのか。お前は残れ」
リオ、と、最後にしっかり名前を呼ばれ、そのままグイッと頭ごと引っ張られた。
「っちょ、レオナせんぱ、」
そして、冒頭に戻るのである。
「おい草食動物、いつまでそこにいやがる。用が済んだなら、さっさと行け」
「でも、」
「別に取って食いやしねぇよ。ただ少し、俺様の遊びに付き合ってもらうだけだ」
「!?」
「大丈夫。変な意味じゃないから。先に戻ってて」
多分、わざとそういう言い方をしたんだろうな、と思う。
焦るユウちゃんの反応を見て、くっ、と喉元で押さえ込まれた笑い声が漏れるのを感じた。
「意地が悪いですね」
「あァ?気持ち良く寝てたところをアイツらに起こされたんだ。別に良いだろ、これくらい」
「ダメです。無闇矢鱈に後輩を怖がらせないでください」
「うるせェな」
「っ、」
腰に手を回され、後ろから、首元の匂いを嗅ぐように鼻を寄せられる。
「………ヴィルか」
「ぇ、」
「お前、またアイツの香水付けてんだろ。臭ェっつったよな」
「言われましたけど、だからって何を付けようがわたしの自由でしょう?というか、そもそも今日は何も付けてませんけど、」
「……あァ、分かった。だとしたら、お前がそれだけアイツの近くいたってことだな」
「かもしれませんね」
「チッ」
首元に顔を埋めたまま、ぐるる、と喉を鳴らしたライオンの牙が、そこに当てがわれた。
「レオナ先輩、」
「んだよ」
「噛んじゃダメです」
「うるせェな」
「噛んだら絶交ですからね」
「……………」
「……………」
「チッ」
「っ!……」
噛み付くかわりに、唇で優しく触れられた場所が熱を持った。
普段どんなに横暴であっても、彼は王族出身だ。そのお国柄もあり、女性の許しが出ない行為を無理に行うことはないが、たまにこうして、酷く強引な時があるから困る。
「レオナせんぱ、っ」
「だから、俺はもうお前の先輩じゃねぇって言ってんだろ」
「やだ……そこで喋らないでっ、」
「あ?聞こえねぇな」
「っ、」
「どうした?リオ」
「ちょ、!」
名前を呼ばれると同時に、うなじ辺りへ軽く歯を立てられ、思わず腰に回っていた彼の手を掴んだ。
「レオナさんっ」
「んだよ、つれねぇな」
「これ以上するなら、今すぐここにルークを呼びますよ!」
「チッ」
「あっ、もう、」
ようやく諦めたのか。彼の天敵である同級生の名前を呼ぶと、渋々腕は離してくれたが、最後にちゃっかりこめかみへキスをされた。
ただの人間であるわたしとは違い、人獣である彼らのスキンシップは、正直どこまで許して良いのか分からないので、悩みの種である。
「レオナさーん!」
「………はぁ、うるせぇのが来た」
「もー、やっぱりここにいた。って、リオさんも一緒だったんすね」
「どうも。ご苦労様ラギーくん」
「どーも」
大きな耳を立てながら、そう言って、不機嫌を隠そうともしない彼に近付いていくのは、ラギーくん。サバナクローの二年生で、実質彼のお世話係である。
「レオナさん、今日が補修の日だって分かってます?」
「あ?」
「アンタ、ただでさえダブってんすから、これ以上留年したら、来年は俺と同級生っスよ?」
「あー、うるせぇな。キャンキャン言うんじゃねぇよラギー」
「俺だって言いたかないっス!……もー、やれば出来るのに何でやらないんスか」
ほら、行くっスよ。と、お目付け役の言葉に観念したのか。小さく溜め息を吐いた彼が、わたしの頬に手を添える。
「またな、リオ」
「はい。補習、頑張ってくださいね」
「この雰囲気でそういう色気のねぇこと言うんじゃねぇよ」
「ふふ、わざとです」
「だろうな」
ニヤリと笑って、今後こそ離れた彼を追うように、ラギーくんもその後を追って行った。
「レオナさんって、ほんとにリオさんのこと気に入ってるっスよね」
「あ?だからなんだよ」
「別に。だからどうってことはないっスけど、何でリオさんのなのかな〜って」
「…………」
「確かに美人で良い子っスけど、そういう子なら他にもいるし、王族のレオナさんが、わざわざ執着する理由が分かんねぇっつーか」
「お前には一生教えねぇよ」