「岸優太です!よろしくお願いします!」

社会人になってすぐ、入社した会社が倒産し、転職した。

「岸くん、よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」

案内されたデスクに荷物を置くと、隣の席にいた女の人が声を掛けてくれる。

なんというか、凄く華やかな人。
髪も化粧も派手なわけじゃないけど、ぱっちりとした目が、キラキラ光っていたからだろうか。

挨拶すると、一瞬ニコリと笑った……………のもつかの間。すぐにドンと分厚い紙の束を目の前に置かれ、「え、」と声が漏れる。

「とりあえず、今日はそれで研修からね」


「はい、ここまでで分からないところは?」
「あぁ〜、いや……はい、」
「はいって何。分かるの?分からないの?」
「あ、分かりました!大丈夫っす!」
「じゃあ次聞かれても教えないよ」
「や!それは、あの〜」
「分からないことは、ちゃんと分からないって言っていいからね」
「、はい」

初日の研修は、隣の綺麗な人。

始業2分。じゃあ始めるからね、と俺の方に椅子を引いて来たその人のことを見て、ラッキー!と思ったのは、一瞬だった。

資料をめくり、テキパキと要点を伝えながらパソコンの画面を操作していく姿は、多分仕事が出来る人なんだと思う。
この数分で、しっかり自分のことまで把握されてしまい、ぐうの音も出ない。

「…………あの、」
「ん?」
「研修終わって、もし分からないことがあったら、その時は、質問……しに来ても、いいっすか……」

それまで、忙しなく動いていたその人の手が、ピタリと止まる。

「え………」

俺、なんか変なこと言いました?
聞き返す前に、ジッとこちらを見つめていたその人の目が、一瞬きゅっと細くなる。

「っあはは、!」
「え、」

あまりにも唐突すぎて、今度はこちらが驚く番だった。

大きく口を開け、楽しそうに笑うその人の声に、デスクの何人かが振り向く。

遠くには、こちらを見て驚きながら見開く人もいて、あぁ、やっぱり何かやらかしてしまったんだな、と悟る。

「そんなこと、わざわざ聞く?」
「え、あ、っすんません、!」
「違う違う!怒ってないから」
「え、?」
「ただ、予想外すぎてビックリしただけだよ」

にっこり。効果音が付きそうなほど綺麗に笑うその人が、岸くんは真面目なんだね、と褒めてくれる。

嬉しい。
ただ純粋に、そう思った。

「分からない事があったら、なんでも聞いて」
「はい!」

楽しそうに、パソコンの画面へ視線を戻しながら言う彼女の向こうで、未だ驚いた顔をしている一人と目が合った。
慌てて頭を下げると、向こうもペコリと頭を下げてくれる。

男の自分から見ても、カッコイイと思う。
多分、仕事もめちゃくちゃ出来る人なんだろうな。
滲み出るイケメンのオーラに圧倒されつつも、「さ、続きやろうか」と声を掛けてくれるその人の言葉で、残りの研修が始まった。